首都圏から半月ほど遅れて、能登にも桜の季節がやってきた。曇り空の多い日本海側にはまれな青空が広がると、淡いピンク色の花びらが突然、息をのむほどの存在感を見せる。
4月12日、「深見町復興祭」が開かれたのは、まさにそんな日だった。
石川県輪島市深見町にある、ずっと前に廃校となった小学校。その校庭に白いゲルのようなインスタントハウスが並ぶ。校庭をぐるりと囲む桜が、満開を迎えていた。牡蠣(かき)を焼く人、ブルーシートに座ってくつろぐ人、シャボン玉で遊ぶ子どもたち……。
集まった人の多くが、7キロほど離れた市街地にある仮設住宅から海岸沿いの国道を通ってやってきた。
「そんなに遠いと思わんけどね。去年は、わざわざバスを頼んでやって来たから。今日は最高の天気に恵まれて、人もたくさん来てくれて、ありがたいね」
仲間たちと焼き牡蠣を囲んでいた男性(66)は、目を細めた。昨年元日の能登半島地震で家を失い、いまは仮設住宅で暮らす。1年前にここで花見をしたときの居場所は、直線距離で130キロほど離れた県南部の小松市、粟津温泉の2次避難先だった。
地震でバラバラになった住民たちが、大切なふるさとで集えるように――。去年も今年も花見の会を催した立役者は、テントの隅でフライドポテトをつくっていた。佐藤克己さん(58)。11年前に東京から移住し、震災後に住民たちと立ち上げた「深見町復興協議会」の代表を務める。
「富山や東京からも学生さんたちが来て、今日の復興祭の運営をしてくれている。これで、深見町の平均年齢が下がったな」と笑った。
選んだ「全村避難」
スローライフにあこがれて移…