Smiley face

 目指すのは、精神疾患をどう治すかではなく、どう生きるかを重視すること――。そうした支援に向けた団体を立ち上げた精神科医の伊勢田堯さん(83)=「一般社団法人地域精神保健サービス提供者日本ネットワーク」(JCOMHS=ジェイコムズ)理事長=に精神保健医療の現状をどう見ているか聞きました。

  • 入院しなくてもいい地域ケアを 草の根運動から 精神科医ら団体設立
写真・図版
リカバリーとは何かについて語る伊勢田堯医師=東京都

 60年以上、精神疾患のある人たちに関わってきました。最も大切にしているのは、「生活を見ずして治療はできない」という考え方です。症状にこだわらず、症状の背景にある人生の行き詰まりを一緒に解消していくのです。この「生活臨床」は1958年、群馬大が始め、今も発展途上にあります。

 当時、「脱施設化」へと進む諸外国とは逆に、国の誘導策で民間の精神科病院が増加。世界でも突出して多い精神病床を抱え、在院日数も長期に及ぶようになりました。

 私がベルギーを2018年に訪ねたのは、日本と同様に民間の精神科病院が多いなかで、精神病床を大幅に減らした成功の秘訣(ひけつ)を知りたかったからでした。でも、小手先の秘訣などありません。あったのは、誰のために、何のために改革するのかという確固とした理念と哲学、未来に向けたビジョンです。これが、日本との大きな違いだと思い知らされました。

カギとなる二つの理念とは

 精神疾患のある人の生活の質…

共有