韓国では非常戒厳令を出した尹錫悦(ユンソンニョル)・前大統領が弾劾(だんがい)・罷免(ひめん)され、6月4日には新大統領が就任する予定です。この間、弾劾賛成派と反対派が、ともに街頭に繰り出し、声を上げました。民主主義の高い成熟度を評価する声がありますが、磯崎典世・学習院大教授は「途上段階にある」と指摘します。なぜでしょう。
――一連の政治混乱を受け、韓国の民主主義は成熟したのか、途上段階にあるのか評価が分かれます。長く韓国政治を見てきた立場から、どう考えますか。
「途上段階ではないでしょうか。選挙で代表を選んで政治を委ねる制度と、人々が直接行動を起こして政治にノーを突きつける運動という二つが、車の両輪のようになるのが民主主義の一つのあり方だとすると、韓国は前者が弱すぎます」
「1987年に民主化宣言がなされ、まだ40年も経っていません。後発の民主主義国家です。長い権威体制下で権力と対峙(たいじ)したのは民主化運動で、政党政治、代議制民主主義は未発達でした」
「横から」の民主化だった
――ただ、国会に動員された軍に、市民や国会議員らが決然と立ちむかう姿はあっぱれでしたよね。
「もちろん非常戒厳を止めたのは市民の力です。ただ、だからといって、韓国の民主主義が日本より先に行っているとか、大統領を弾劾(だんがい)したことで民主主義を取り戻したというのは、違うのではないかと。民主主義が退行していたから、戒厳令が出るような事態になったとも言えます」
――韓国の民主化は、市民らが血と汗と涙で勝ち取ったとも言われます。
「単純にそうとは言えません。1987年の民主化は、上からでも下からでもなく、『横から』と言われます。民主化運動の圧力で体制の支配層が『民主化宣言』を出し、権威主義体制の支配層と民主化を求める野党という政治エリート間の交渉で憲法が改正され、その後、少しずつ進みました。『協約の民主化』と呼ばれるゆえんです」
「この改憲の際、任期5年で…