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酢を仕込むための吉野杉の巨大な桶が並ぶ蔵=奈良県橿原市中町、塚本和人撮影
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 「万葉集」にうたわれた大和三山の一つ、耳成山の北麓に広がる奈良県橿原市中町。この小さな農村で明治時代から操業を続けてきた酢とミソの製造所の建物群が2023年、住民の心のよりどころだった寺院とともに国の登録有形文化財に登録された。高齢化と人口減少の波が押し迫るなか、故郷の歴史を残したいと願う住民たちの思いが、文化財登録へと導いた。

 登録されたのは、明治27(1894)年に製造許可を得た「瑞穂(みづほ)酢」の醸造蔵や住宅など11棟(大西家住宅)と、大西甚吾社長(69)が檀家惣代を務める近くの浄楽寺本堂と門だ。

 大西さんによれば、大西家住宅の建物群は、木造2階建ての主屋(228平方メートル)や北蔵(168平方メートル)、木造平屋建ての中蔵(87平方メートル)など。1883~1918年に築かれたという。蔵内に入ると、吉野杉でつくった高さ1・9メートル、直径2・3メートルの桶が約80個並ぶ姿に圧倒される。

 浄楽寺本堂は木造平屋建ての115平方メートル。江戸時代の1756年に寺号を認可され、84年に本堂が再建された。現在の本堂は明治15(1882)年、神仏分離令で廃絶された多武峰妙楽寺(桜井市)の輪蔵の古材を住民たちが買い取り、明治20年に再建した。

 登録のきっかけは、2021年に瓦の研究者が大西家の屋根上の鬼瓦を調査するために訪れたことだった。大西さんは、この研究者から大西家住宅と浄楽寺の歴史的価値、国の登録文化財制度について聞き、文化財登録を目指し始めた。

文化財登録制度とは

 文化財登録制度は、1996…

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