いまも、事故の瞬間の記憶はない。
「分かりますか?」という声が聞こえ、救急隊員の顔がぼんやりと見えてきた。
ドラマでよく見るシーンみたいだな、と思った。
2023年6月上旬の朝、映画監督の土井裕泰さんたち撮影クルー6人を乗せたワゴン車は、茨城県神栖(かみす)市の国道をひた走っていた。
千葉県銚子市内でロケを終え、都内に戻る途中のこと。
そこへ突然、対向車線から中央分離帯を飛び越えてトラックが突っ込んできた。ハンドル操作を誤ったらしい。
ワゴン車の右側は大破し、運転席のすぐ後ろにいた土井さんは意識を失った。
他の5人は? 大丈夫か――。
目覚めて案じる土井さんは、病院で「あなたが一番ひどい」と聞かされる。
ほっとしたものの、折れた肋骨(ろっこつ)で肺が傷つき、肺に血がたまる重傷を負っていた。
撮影中止を覚悟した
集中治療室(ICU)で人工…