【神奈川】鎌倉文学館(鎌倉市長谷1丁目)の隣接地にある洋館が解体、撤去されることになった。市が旧大名家の加賀前田家当主から寄付を受けたが、15年間、活用されなかった。市民団体は「歴史と物語がある建物を次の世代に残してほしい」と見直しを求めている。
白壁に赤茶色の屋根が映えるこの建物は、鉄筋コンクリート造り2階建てで、竹中工務店が1971年に建てた。敷地内には地下1階付2階建てのワイン庫もある。加賀前田家18代当主の利祐(としやす)さんが2010年、4475平方メートルの土地とともに市に寄付した。
寄付時の利祐さんの説明などによると、17代当主の故・前田利建(としたつ)さんと利祐さんらは、現在鎌倉文学館として使われている前田家別邸(本邸は東京・駒場)に住んでいた。
1965年ごろから、広大な別邸の一部を佐藤栄作元首相が週末の別荘として借りた。大きな声で夜中に施政方針の演説などの練習をしていたという。利建さんが引っ越しを考えたことなどが、洋館が建てられたきっかけだという。
洋館に1人で暮らしていた利祐さんの母親が2009年に死去したことなどから、寄付を決めたという。建物の一部を残したり旧前田家があったことを示したりすることを希望し、松尾崇市長は「素晴らしいものにしていきたい」と応じていた。
市や関係者によると、ギャラリーや音楽会場など利活用を検討したが、住宅地にあり室内に段差が多く、耐震診断も必要なため、実現しなかった。建物に文化財としての位置づけがなく、がけに面し、2021年に建物の約4分の1が土砂災害特別警戒区域に指定されたこともあり、公共施設としての活用は難しいと判断した。
解体にあたっては、洋館内の3カ所のステンドグラスを鎌倉文学館に移し、同館に新築する管理棟に屋根瓦の一部を再利用し、前田家の記憶を残すよう配慮するという。
これに対し、市民団体「旧前田邸を保存活用する会」(約10人)は3月に建物を見学し、4月に解体、撤去計画の再検討を求める要望書を市に出した。会の代表で1級建築士の瀧下嘉弘さん(80)は「レセプションに使えるリビングがあり、同じ階に床の高さが異なる複数のフロアがある。昭和の近代建築を象徴する建物」と評価し「佐藤元首相とのエピソードもあり、文学館とセットで次世代に残してほしい」と話している。