松岡美里のキミとキラッキランラン
放送中のアニメ「キミとアイドルプリキュア♪」(ABCテレビ・テレビ朝日系、日曜朝8時30分)のキャストが月に1度、思いを伝える連載「キミとキラッキランラン」。5月末は、キュアアイドル役の松岡美里さんです。
レジェンドアイドルの響カイト、そして妖精メロロン。登場するキャラクターが増えて、収録現場はにぎやかだそう。中でもムードメーカーはプリキュアに立ちはだかる役を演じる、あの人たち。
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キラキランドから来た妖精、メロロン。演じているのは花井美春ちゃん。普段は、るんるんと呼んでいます。芸歴的にも一番近い存在で、別の作品でもずっと一緒に演じてきたこともあって、現場にいてくれるだけですごく安心します。
アフレコに合流したのは、メロロンの登場と一緒のタイミングです。初めましての方も、皆さんるんるんに話しかけていて、るんるんもすごく楽しそうにしていて。温かい現場だと感じます。
そんな休憩時間の間も、響カイト役の佐久間大介さんは、立ち居振る舞いが「ずっとアイドル」です。
誰かがボケたとすると、佐久間さんがツッコんでくださいます。その場が盛り上がるように、楽しくなるようにしてくださる。長年アイドルとして色々な努力をされてきたからこそにじみ出る雰囲気が、そのままカイトさんに表れていると思いました。
いま、物語の中では「オフ」のカイトさんが登場していますが、「ずっとアイドル」ですよね。それが佐久間さんの「ずっとアイドル」な姿と重なって見えます。
お芝居はもちろん、自然なキラキラと優しさ、りりしさが詰まっていて素敵です。
うたちゃんがカイトさんのようにありたいと思うように、私もそうありたいと思わせてくださる方です。
「キミとアイドルプリキュア♪」の現場は、みんながずっとおしゃべりしています。話していることは、読んでいるだけで面白い台本を、もっと面白くするにはどうしたらいいか。
なかでもチョッキリ団さんは、トリオのコント師かな、と思うぐらいのプロフェッショナル。敬意を込めて、さん付けです。
チョッキリーヌ様を演じる矢作紗友里さん、カッティーさん役の山田浩貴さん、ザックリーさん役の佐藤せつじさんはいつも、テストの段階で色んなアドリブを試しています。
台本にない想定外の言葉が、テストの段階から急に現れるんです。
たとえば、ザックリーさんは台本に「○○だよ、お前!」というせりふがあると、本番では「お前」の数が増えていることがあるんです。そうすると、後々いただく台本にも、せつじさんのアドリブに引っ張られたように「お前」が増えていて、面白いです。
カッティーさんも、キュアアイドルの歌を鼻歌で歌っているのが見つかったときの「ギョッ」とした反応が、思ったよりすごくかわいらしいです。チョッキリーヌ様も、カッティーさんやザックリーさんに対して、台本の倍以上にツッコんでいます。
「キャラクターを育てていく」というのはこういうことなんだな、と思います。こちら声優側からもたくさん提案をして、スタッフの皆さんとも色々話し合って、キャラクターの方向性が定まっていくんですね。
テストが終わって、スタッフの皆さんが確認をしている時間に、チョッキリ団さんは3人でまた打ち合わせ。それから本番に臨んでいます。本番になると、3人のまた新たな表情が次々と作り出されていく。まさにライブだと思いました。
いつもチョッキリ団さんの場面は笑ってしまうんですけど、そこで作品の雰囲気ができるんですね。「アドリブに挑戦してもいいんだ」と勇気をいただいています。
第11話「Trio Dreams」(4月20日放送)は、自分の夢について思い詰めた咲良うたちゃんが、ちょっと変になっちゃう回でした。どこまで変な感じにしていいかと最初は迷ったんですけど、「チョッキリ団さんたちがあそこまでやっているのだから」と勇気を出して、やれる限界までやってみました。
収録が始まったころは、うたちゃんはすごくかわいくて女の子らしいな、という印象がありました。私がそういった女の子然としたキャラクターを、こんなにたくさんしゃべるお役として演じるのが初めてだったので、「かわいくするんだ」と意気込んでいたときもありました。
ただ収録が進むと、表情がコロコロと変わるところや、寝るときは思いっきりイビキをかくところも、うたちゃんのかわいさだと思えてきました。
だったら色々な声で表現してみたいと思って、がなったり、だみ声にしたり……。そんな挑戦をしてみています。チョッキリ団さんは「挑戦する心」を教えてくれました。
実は3人とも現場では、アイドルプリキュアを応援してくれているんです。あるとき、せつじさんに「やってるからね、僕」と言われて。何のことかと思ったら、キュアアイドルたちが変身する場面のことでした。
「イェイ!」というかけ声と一緒に、私たちの後ろで静かに拳を突き上げてくれているんです。普段は画面のある前のほうを見ているので気がつきませんでしたが、他のプリキュアが変身する場面で、後ろを見てみたら「本当だ!」と。うれしかったですね。
チョッキリ団さんが召喚するマックランダーさん、クラヤミンダーさんを演じる、矢野正明さんのお芝居も、毎回聞き逃さないようにしてほしいです。本当にすごいんです。
台本には「マックランダー!」「クラヤミンダー!」の一言。この7、8文字の中でいっぱい遊んでいらして。
クラヤミンダーが振り向くとき、「ミンダ?」と言う場面があるんです。「何だ?」という意味なんですよね。それに気づいて、現場でみんな盛り上がりました。
マックランダーやクラヤミンダーには、回によって色んなモチーフありますが、それに従って声色も変わっていくんです。
たとえば走るマックランダーは「ランダ、ランダ」とずっと言っていました。これは「ランナー」だからですよね。スピーカーとマイクのマックランダーが3体現れたときは、よく聞くと3体の声の音程がハモっているんですよ。
本当にたくさんの工夫があって、我々は矢野さんのことを「職人」とお呼びしております。
プリキュアシリーズの歴代の敵役を振り返ると、キラリンウサギとして出演した「わんだふるぷりきゅあ!」(2024~25年)に登場した、トラメとザクロさん、ガオウ様が大好きです。
人間に追われてオオカミが絶滅してしまったという悲しい歴史があって、心がガルガルしてしまったガオウ様。慕う者のことを大切にするザクロさん、自分が楽しいと思えることを大切にするトラメ。
それぞれの信念があって戦っていたことが、結構後半になって分かるんですよね。最後にプリキュアたちの優しさで包まれて、和解に至る展開が、素敵だなと思いました。
自分の中にあった正義を変えていく、その覚悟にひかれるのかもしれません。
そういう意味で言うと、「フレッシュプリキュア!」(09~10年)のキュアパッションが大好きなんです。元々は管理国家ラビリンスの幹部・イースとして、プリキュアと敵対してきた女の子が覚醒したプリキュアです。
とても人間らしいと思うんです。人間って良い部分だけを持っているわけではないですよね。きっと自分の中に嫌な部分もあって、心が真っ暗闇になるときも絶対にある。
それでも、乗り越えてプリキュアになる。ダメだった部分を反省して、次に生かしていこうとする。そんな部分が幼心にかっこいいと感じたんだと思います。
敵役こそ難しいと思うんです。お子さんにとって怖すぎてもいけないし、かといって全く怖くないのも……。その調整が絶対に大変で、今の私にできる技術があるかというと、どうなんでしょう。
今は先輩方のお芝居を生で浴びる幸せを味わっています。ですが、いつかは敵役を任せてもらえるような人間になりたいです。