紛争や貧困から逃れた人々が、中東や北アフリカから押し寄せた「欧州難民危機」から10年が経ちます。多くを受け入れた国では社会の混乱から「統合の失敗」とも言われ、依然減らない流入に、門戸を開いてきた欧州連合(EU)でさえもその姿勢を大きく転換しつつあります。欧州の移民・難民政策を専門にする上智大の岡部みどり教授(国際政治)に、現状を聞きました。
――移民や難民を受け入れたドイツなどでは、「統合の失敗」とも言われています。
「失敗」の一番の原因は、一度に大量の人々を受け入れたことにあります。少しずつ、社会に統合するプロセスを見届けてから次の人を受け入れるというサイクルが理想的で、例えば、カナダではトルドー政権以前は、それでうまくいっていました。
しかし、多様性を重視したトルドー政権が受け入れをいきなり倍増させたことで社会が混乱。その結果、移民・難民の受け入れにブレーキをかけざるを得なくなりました。
難民も、いくら人道目的とはいえ制御できないほどに受け入れてしまうと、結果的に統合を阻害してしまう。場合によっては、犯罪やテロ事件など安全保障上においても問題が起きてくるのであって、ドイツもそうでした。
――こうした流れもあってEUは昨年、難民審査を厳格化する制度を成立させ、大幅に流入を減らす方向にかじを切りました。
これは高技能の人材を獲得する一方、不法移民を排除するための「選別」が目的です。つまり、「望まれる外国人」と「望まれない外国人」とを明確に分けることです。
欧州も日本同様、少子高齢化…