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昨年秋、全国大会で金賞を受賞した奈良県生駒市立生駒中の生徒と山上隆弘先生(左)=2024年10月19日午後2時32分、宇都宮市明保野町、佐藤道隆撮影
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 夏が来ると、蒸し暑い音楽室を思い出す。扇風機の音にメトロノームがかき消され、配られた楽譜に小節番号を書き忘れては怒られた。

 記者(24)は中学、高校と吹奏楽部で打楽器に夢中になった。ただ、指導する先生たちの思いを考えたことはなかった。

 入社したばかりの2023年春、初任地の奈良で、生駒市立生駒中の山上隆弘先生と出会った。朝7時半過ぎに取材で学校に行くと、すでに生徒たちが音を合わせていた。先輩に演奏の仕方を教えてもらったり、チューナーを見ながら必死にティンパニをたたいたり。その姿に、かつての自分が重なった。

 翌年の秋、生駒中が全国大会に進んだ。会場は記者の地元、宇都宮市の文化会館。中学、高校のときに出場した吹奏楽コンクールも、このホールだった。本番前から取材し、金賞に輝いた瞬間は生徒たちと一緒に喜んだ。

 その後、山上先生と明け方まで話し込んだ。

 「どうしたら、部員みんなで演奏する喜びを感じてもらえるのか」

 山上先生のこの言葉に、学生時代には思いもしなかった「親心」を知った。

 奈良に戻り、全国大会に進む生駒市立桜ケ丘小を訪ねた。今西恵三子先生が選んだ曲は、映画「千と千尋の神隠し」で流れる曲で構成される「スピリティッド・アウェイ」。登場人物たちが関わり合って成長する点が、演奏する子どもたちと重なるという。

 練習では、一人ひとりが考えた物語を発表し、みんなで意見を交わし合う。音楽を通して想像力を広げられるように工夫していた。

 そんな吹奏楽も、教員の働き方改革の一環で環境が変わってきている。

 今年3月、教員以外が指導にあたる「地域バンド」を奈良で取材した。社会人楽団を率いる中川晋一さんが小中学生約30人を集めて練習会を開いた。

 中川さんの楽団のメンバーや音大時代の仲間ら約20人が指導役としてボランティアで参加した。各楽器に詳しい人たちが協力することで、個別の演奏方法を教えられる。新しい指導方法が模索されていることを肌で感じた。

 4月に赴任した京都総局でも吹奏楽を担当する。京都の音楽室には、どんな物語が待っているのだろうか。

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