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高蔵寺の大坂幸平選手(右)と芹沢大地投手=2025年6月11日、愛知県春日井市藤山台1丁目、松本敏博撮影

 3月中旬、東濃実(岐阜)で行われた練習試合。試合序盤、高蔵寺(愛知県春日井市)の投手が空振り三振を奪った速球に、両ベンチがどよめいた。

 掲示板に表示された球速は「150キロ」。

 投げたのはエース左腕の芹沢大地投手(3年)だ。自身、初めて到達した大台だった。「打者の手元で浮き上がってくるような、気持ちの乗った球だった」。受け止めた正捕手で主将の大坂幸平選手(3年)は、かつてない迫力に身震いした。

 芹沢投手はプロも注目する選手だ。野球では無名の公立・高蔵寺で頭角を現し、183センチの長身かつ細身の体から、最速150キロの豪速球を投げ込む。3月には、U―18(18歳以下)日本代表の候補選手に公立から唯一選ばれた。

 しかし、どんな好投手でも、そのボールを捕れる捕手がいなければ輝けない。その役目を担うのが大坂選手だ。今春の県大会では2試合を捕逸することなくリード。計16イニングで23奪三振、被安打はわずか6と、存分に暴れさせた。

相棒のボール受け続けた日々

 でも実は、芹沢投手の球を自信を持って捕れると思えるようになったのは、この春になってからだという。

 小学校からの級友で、高蔵寺中でもバッテリーを組んでいた。生真面目な大坂選手とマイペースな芹沢投手。互いに足りないところを補えるから気が合った。芹沢投手もまだ目立つ存在ではなく、2人の自宅から自転車で通える高蔵寺には、大坂選手が誘った。

 高校に入り、芹沢投手は急成長した。2年の春には最速140キロに達し、大坂選手も「捕るのが怖い」と感じるほどに。県大会では直球をそらしてしまい、それが決勝点となって敗れた。

 「自分が足を引っ張れない。芹沢のボールは全部捕る」

 キャッチボールは常に一緒に行い、本来は控え捕手が入る投球練習も、芹沢投手の時はいつもマスクをかぶった。構えたミットから大きく外れたボールが体に直撃することもあったが、めげなかった。

太くなった指は努力の証

 河原仁監督は「真面目すぎてときどき心配になる。でも、大坂の存在は、芹沢にとって間違いなく大きい」。速球を受け続けた左手は、人さし指の付け根の部分が太く、硬くなっていた。

 「僕がしっかり捕れるからこそ、芹沢も全力で投げられていると思う。誇らしい」。芹沢投手も「自分のことを一番わかってくれていて、投げやすい」とうなずく。

 配球では、最大の武器である直球を生かすため、縦に大きく落ちるスライダーとのコンビネーションを重視している。直球と同じ高さに要求し、ワンバウンドしてミットに収まらなくても体で止める。この夏は、「強豪相手でも強気にバンバン押して、甲子園に行くだけじゃなく、甲子園の舞台で勝つ」ことが目標だ。

 卒業後も野球を続けるかは未定という大坂選手。でも、このバッテリーは高校までだと思っている。一級品のボールをずっと受けてきたからこそわかる。芹沢投手は自分には届かない、さらなる高みへ上っていくはずだ。その未来へつないであげたい。

 「芹沢がどんどん上へ行けるように、最後まで芹沢の強みを生かした配球で勝って、実力を伸ばしてあげたい」

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