軛(くびき)。元は牛馬で車を引くための道具だが、転じて人の自由を束縛するものを指す。香港国家安全維持法(国安法)による厳しい統制が敷かれている香港では、民主や自由を求める「民主派」であることが皮肉にも軛となり、人々にいつまでも重くのしかかっている。
顔見知りの共産党関係者からの言葉
「ゲームオーバー」
香港の民主党元副主席、李華明(70)の脳裏にこんな言葉が浮かんだ。肌寒くなり始めていた2024年冬、香港のレストランで向かい合っていた顔見知りの中国共産党関係者の言葉を聞いたときのことだ。
民主党は1994年、「香港民主の父」とも呼ばれる李柱銘(マーティン・リー)らが設立。香港の中国返還後、初となる98年の立法会(議会)選挙で第1党となるなど、長く香港の民主化運動の中核として活動してきた。しかし現在は立法会の議席は一つもない。
香港では20年に反体制的な言動を取り締まる国安法が施行された後、民主派の政党や団体が厳しく統制されてきた。
21年には選挙制度の改変により、選挙の立候補予定者が政府に忠誠を誓う「愛国者」かどうかを事前審査することになり、民主派は事実上排除された。民主党はそれ以降のあらゆる選挙で候補者を擁立していない。
だが、すでに国安法施行から5年が経とうとしている。25年冬の立法会選で擁立が認められる可能性があるのではないか。李華明はそう考えて、旧知の共産党関係者に探りを入れたのだった。
「我々は候補者を擁立できるのだろうか?」
党関係者の返事は思ってもいない一言だった。
ほかの民主党幹部も受け取った「メッセージ」
「選挙前に(民主党が)まだ…