消えてしまいたくて、たまらない――。そんな言葉が表紙に載る漫画「ウツパン」は、死にたい気持ちと回復の過程をリアルに描き、反響をよんだ作品だ。自殺未遂をして搬送されたことなど、大学在学中の実体験を基に、「有賀」というペンネームで作品を描いた筆者(26)に話を聞いた。
- 「心がしんどい」大学生の相談窓口、24時間対応 予約2週間待ちも
――主人公の「パンダ」は人間関係も勉強も苦手で、家でも居場所がないと感じながら大学生になり、さらに精神状態が悪化していきます。まさに体験の通りとか。
漫画で人に読んでもらえる作品を描こうと思ったとき、鬱(うつ)のときの実体験が浮かびました。
大学生になる前から、自分って何者なのだろうという漠然とした不安と、生きているのが「つらい」という思いがずっと胸にありました。進学後からひどくなり、繰り返し「死にたい」と思うようになりました。他人と自分を比較し、周りの学生に合わせようとしすぎたのだと思いますが、実際のところなぜそうなったのか自分でも分かりません。
――漫画の主人公は、自殺の手段となるものが目に入ると、自殺しようという気持ちが増幅する状態でした。「脳から指令が来て、行動が自分で制御できない」という表現もありました。
ぼんやりと「調子が悪い」という場合は、自殺はあまり現実的ではないという気がします。一方で、自殺の手段が明確だと、「実行できる」という変な自信のようなものにとらわれて、そちらへ向かってしまいかねないと感じていました。
自殺の手段になりそうなものを、なるべく近くに置かないという対応は、予防に有効だと思います。
――周りに相談することの難しさも作品で表現されています。漫画の冒頭には「こころの健康相談」の電話番号を描いたうえで「何人がここに電話するだろうか」「何人が 自分が電話すべきだと自覚できるのだろうか」という言葉があります。
「希死念慮(死にたい気持ち)」に駆られたときは、目の前が見えなくなるというか、漠然とすごくつらい感覚になりました。めっちゃ痛い、しんどくてたまらない、頭がこんがらがってどうしていいか分からない。そんな風に「気持ちが大けが」みたいな状態で、今すぐ逃れる手段、解放される手段として死ぬことが浮かびました。
薬をたくさん集めても、すぐ飲むわけではなくて、死への恐怖を増幅させてなんとか踏みとどまる。漫画でも描いたように、死にたいと思うときの精神状態って一定ではなく、常に揺れ動いていました。
それに、私たちの世代には電話での相談ってしづらいんですよ。死にたい理由をうまく説明できない。プライドが高いから恥ずかしいというのもあるかもしれない。電話してもつながらないことだって多い。LINEの方がハードルは低かったです。
――精神科に入院し、治療で回復して退院したあとに、自殺未遂で救急搬送されたとのこと。搬送時に「なんで?」と聴かれて、「死ぬにはわかりやすい動機があるといいらしい」と書きました。
先ほども言ったように、死にたい気持ちの言語化はとても難しい。初対面の救急の人に伝えるのはなおさら、でした。なにがつらいのか、なんで死のうとしたのか。自分でもよく分からないので。
少し気分的に具合が悪いというときの方が「調子が悪くてさぁ」と言えるけれど、本当に深刻に精神状態が悪くなると、むしろ周りに言えない。
精神科を退院後に、自殺未遂をした筆者が、やがて回復していった経緯を記事の後段で触れています。大学側にできることとして、教職員向けのeラーニング研修を提供する団体の取り組みも紹介します。
――大学の相談窓口は?
大学の保健センターに「すぐにどうにかしてほしい」という思いで電話したのですが、「まず予約を取るように」と言われました。
「死にたいんです」と伝えるのは勇気がいるんです。専門の先生には話したいし、言えるけれど、受付の人には自分の状況を言えないというのもありました。病院に行ったあとに電話で連絡したときは「カルテがあるのだから病院に相談して」と言われてしまったし。
――どうしてほしかったのでしょう。
親身になって話を聴いてほし…