北大西洋条約機構(NATO)が、加盟国の防衛費を国内総生産(GDP)の5%に引き上げる新目標を決めました。米国のトランプ政権の要請に応じた形ですが、なぜ5%なのでしょうか。また、日本を含む各国にとって適切な防衛費はどう決めるべきなのでしょうか。防衛力整備に長年携わった元自衛艦隊司令官の香田洋二さんに聞きました。
――米国はなぜ同盟国に防衛費の増額を求めているのですか?
第2次世界大戦直後の米国は圧倒的な国力を持ち、軍事力も核兵器から大陸間弾道ミサイル(ICBM)までほぼ独占していました。西側の自由民主主義体制の維持のために米国が自ら「持ち出し」をすることに、米国民もおかしいとは思っていなかったのです。
ところが、その後、敗戦国だった日本やドイツが経済成長し、途上国の生活水準も上がるなか、ヒト、モノ、カネ、全てを米国が持ち出すことで本当にいいのか、という疑問が米国民に生じました。その流れでトランプ大統領も誕生したので、我々も米国民の捉え方を理解する必要があります。
米国の欧州への不満、2014年から 対中国の考えも変化
――NATOは米国の要求に応じる形で防衛費増額を決めました。
欧州のNATO加盟国への米国の不満は、2014年にさかのぼります。ロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に併合し、次にバルト3国をどう守るかという議論になったのですが、欧州は全く防衛体制が整っていませんでした。
背景には冷戦後にソ連の脅威がなくなって進められた「平和の配当」があります。欧州各国は防衛費を減らし、その分をインフラや社会福祉に回していました。ドイツは陸軍を3分の1にまで減らしていたのです。
クリミア半島の併合を受けて…