「となりにバンコクハクが来るんやって」
帰宅を玄関で出迎えると、父は靴も脱がず、興奮気味に教えてくれた。
60年前の光景を、奥居武さん(66)は今も覚えている。
前年に千里ニュータウン(大阪府吹田市)の藤白台にある一軒家に引っ越してきた。周囲は赤茶けた造成地が広がるだけ。「まるで火星みたいや」と幼心に思った。
家から歩いて15分ほどのうっそうとした雑木林の丘に「バンコクハク」が来るという。どうやら万国博覧会という大きなイベントのようだ。
工事が始まると、ニュータウン内を走るダンプカーの数が増えた。親が万博工事の作業員という子どもがクラスに転入してきたと思うと、工事の終了とともにあっという間に去っていった。
工事の様子は家から見ることができた。雑木林が切り倒された後、少しずつ建物ができていく。千里ニュータウンの住宅開発も続く。開幕までの5年間、1カ月単位でどんどん町が変わっていった。「大人は落ち着かない様子だったけど、子どもは楽しみで仕方なかった」
1970年3月、ついに大阪万博が開幕した。
小学4年生の奥居さんは早速…