Smiley face

 夜、ふと視線を向けた電車の窓ガラスに、死んだ父親が映っていた。ぎょっとして見つめたら、がさついた肌の自分だった――。東京都在住の会社員でライターの伊藤聡さん(53)は、そんな経験から4年前、スキンケアを始めました。自分の肌を触り、体調の変化を知る中で「自らをケアしない中年男性の不健全さに気が付いた」と言います。話を聞きました。

「10年前の私には意味不明」

 ――40、50代の同僚の男性に日々のスキンケアについて聞くと、「スキンケア??」といった反応で、ハードルが高いようです。

 分かります。私もそうでした。お風呂上がりに導入化粧水をつけて……なんて、10年前の私には意味不明です。

 スキンケアを始めて女性と話すことが増えました。女性の多くは日々肌を触り、「疲れているな」などと手のひらから体調を感じ取っています。月経もあり、体調変化も自身がよく分かっている。女性はこんなにも自分自身のことを知っているんだと驚きました。

写真・図版
「ん、とってもいい香りがする」と言いながらクリームを塗る伊藤聡さん=2025年6月13日、東京都世田谷区、相場郁朗撮影

 裏返せば、かつての私も含め、男性がいかに自分の身体に対して無頓着だったか気づかされました。英国のコメディアン、ロバート・ウェップは著書「『男らしさ』はつらいよ」(双葉社)の中で「男性は自分をあまり大事にしない傾向がある。(中略)たとえば肺感染症にかかったとしても3カ月は耐えるのが本当の男だ、などと考える」と書いていました。

 首肯します。私も背中に腫れ物ができたとき、強い痛みが出るまでそのままにしていました。自分の身体についてどこかひとごとのようで、日頃から「手入れ」する発想がないんです。

 そもそも、自分をケアすることが「負け」のように感じる中年男性は多いと思います。

 ――どういうことでしょうか。

 「泣くな」「歯を食いしばれ…

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