奈良県桜井市笠の名物「笠そば」を提供する店が、5月から休業している。自家栽培のソバが売りだったが、昨秋に獣害で食い荒らされ、収穫量が激減したためだ。
笠そばは、市東部の中山間地にある笠地区の畑20ヘクタールでソバを栽培し、生産から加工、提供まで地元で賄う。
国のパイロット事業で1990年代から始まった。2002年には笠地区全戸が出資する有限会社「荒神の里・笠そば」を設立、笠山荒神社近くに店舗兼社屋を建て、そばを一年中提供するようにした。現在は年9万人が訪れる。
山本信広社長(76)によると、ソバ栽培の4年目ごろからイノシシが食い荒らす被害が出始めた。山から畑に降りてこないよう金属製の防護柵で囲うと、今度はシカが飛び越えて荒らすようになった。
現在、防護柵は総延長26キロある。獣の体当たりや倒木による破損を見回るのが大変なうえ、数が多いと修復に時間と資金がかかる。笠地区は全戸の8割が60代以上と高齢化が進み、労働力が落ちているという。
ソバは8月中旬に種をまき、10月に実を収穫する。昨年、防護柵の補修や刈り取りが遅れたところを狙われた。ソバの実の収穫は3トンと、例年の3割ほどしか採れなかった。店は今年4月末で営業休止に追い込まれた。
市は笠地区への移住や定住による活性化をもくろむが、過疎化はゆるやかに進む。移住者はいるものの、世帯数はこの20年で2割近く減った。現在、約180人が住む。空き家が少ないのも悩みだ。
一方、集会で連絡していたことをLINEで伝えるようにするなど、慣習の現代化も一部で採り入れている。
従業員25人の日当や100万円を超えるとみられる防護柵の補修費のため、山本社長は金策に走る。「そば作りが継続してから、活性化など次の段階に進める」と、年末の営業再開をめざす。