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写真・図版
台湾総督府(1930年代撮影)

 日本は台湾を植民地として支配したけれど「良いこと」もした――こんな語りの広がりに懸念を抱いた経済史研究者・平井健介さんが、日本による台湾統治の歴史を概観する本を出しました。日本の台湾開発とは何だったのでしょう。戦後に台湾が経済成長を果たしたのは「日本のおかげ」だと言えるのでしょうか。平井さんにじっくり聞きました。

無邪気な学生たち、「台湾では良いことも」

 ――日本の台湾統治の歴史を概説した近著を執筆したのは、学生が「俗説」に染まりやすい現状を憂えたからだったそうですね。

 「植民地の歴史の授業を大学で担当していると『日本のおかげで今の台湾や韓国はあるんですよね』と無邪気に語りかけてくる学生にたまに出会うのです。とりたてて日本を持ち上げようとしている感じはなく、力説するわけでもない。その無邪気さが逆に心配だなと感じていました」

 「『台湾統治で日本は良いこともしたのですよね』という話と『だから台湾は親日なのですよね』という話がセットで語られるのもよく聞くパターンです。植民地統治の歴史に興味を持った学生ほど、そうした俗説にまず触れてしまう状況を、少しでも変えたいと思いました」

 ――学生たちは、どういうところでそうした説に触れているのでしょう。

 「授業で簡単なアンケートをしたら、ユーチューブやネット記事で見聞きしたとの回答が主でした。そうした学生のほとんどが、全く疑わず信じた、日本人であることが誇らしく思えたなどと答え、懐疑的にとらえた人はわずかでした」

 ――日本の台湾支配の始まりは明治期でしたね。

 「ええ。1895年に、日清戦争に勝利した戦果として台湾を領有しました。いわゆる植民地化です」

 「日本は『外地』である台湾には、日本本土などの『内地』と同じ法制度は適用しませんでした。大日本帝国の一部としつつも、内地が外地を支配する関係に置いたのです。1945年に敗戦するまでの51年間、台湾を統治しています」

 ――著書では、経済を中心にして当時の歴史を概観しましたね。なぜですか。

台湾統治、最大の目的だった「経済」

 「日本が台湾を統治した最大の目的は、現地にある様々な資源の開発・利用だったからです。つまり主目的は経済だったのです」

 ――日本はどのように台湾開発を進めたのですか。

 「開発は大きく3期に分けられます。①台湾を利用して内地の経済問題を解決しようとした1910年代までの『対日開発』時代、②産業の高度化を進めようとした30年代前半までの『総合開発』時代、③戦争体制の構築を目的とした敗戦までの『軍事開発』時代です」

 ――対日開発とは?

 「経済後進国だった明治期の…

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