トランプ米政権が、「相互関税」で各国に課す新たな税率を示し始めました。米中摩擦を受け、中国からの生産移転で対米輸出を増やしてきた東南アジア諸国連合(ASEAN)の国に、今後どんな将来が待ち受けるのか。東南アジア地域の経済状況に詳しい、国士舘大学の助川成也教授に聞きました。
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――トランプ米政権は、ASEAN各国に高関税を課しています。
米政権は、東南アジア地域が「中国の迂回(うかい)輸出拠点」だとの考えをもっているのでしょう。域内各国への関税率の高さは、中国の拠点を封じ込める、という米側の強いメッセージです。米中対立の高まりにより、生産拠点が中国からこの地域へと移る「漁夫の利」の状況を封じたいのでしょう。
現に、東南アジアからの米国の輸入品は、部品や原材料を中国から輸入し、同地域で組み立てたものが多い。米国では、中国からの輸入が減れば、その分東南アジアから輸入が増える、という相関関係も見てとれます。
――ベトナムは、他国に先駆けて「関税率20%」で合意しています。
ベトナムとしては、外国からの投資を今後も呼び込むためにも、早く合意をした方がいいと考えたのでしょう。
ただ、当初示された46%から下がったとはいえ、20%は企業に重くのしかかる水準です。ベトナムは今回の対米交渉で、ASEAN域内をのぞく既存の自由貿易協定(FTA)と比べて、圧倒的に相手国に有利な条件を提示しました。早い段階から誠意を見せてきた経緯、米国製品に対する輸入関税をほぼゼロにするとされる合意内容も踏まえると、「20%」の衝撃は大きい。対米関税交渉における妥協の限界を表しているとも言えます。
14カ国中、ASEANが6カ国「無言の圧力」
――7日には、タイやマレーシアなどの新たな関税率も発表されました。
90日間の猶予期間を経て、米政権がまず税率を通知した日韓など14カ国のうち、ASEANからは6カ国が含まれていました。そのことが、相互関税におけるこの地域の戦略的意味の大きさを改めて浮き彫りにしました。「目を光らせているぞ」という、米政権の無言の圧力だと言えます。
域内の主要国と言えるタイ、マレーシア、インドネシアは、当初の税率を据え置くか、小幅な上昇としました。交渉はなお進行中で、タイとインドネシアは地政学や供給網の面で重要なパートナーでもあり、米国としても「妥協の余地を残したい」というメッセージと捉えられます。8月1日の発動までの間はディール(取引)の最終局面となります。
一方、カンボジア、ラオス、ミャンマーの税率は一定程度下がったとはいえ、なお高水準です。中国の「迂回地」としての懸念が払拭(ふっしょく)されていないことの表れでしょう。
域内で税率に差が出たことで、産業立地の誘致競争は今後ますます激化するでしょう。また、米政権はベトナムと合意した「20%」より低水準に税率を下げる気はなさそうだ、ということもみえてきました。
――製造拠点の誘致競争を読…