大学で神職資格を得た高千穂有昭さん(43)は2007年、英彦山神宮(福岡県添田町)に奉職した。その2年前に宮司が祖父有英さんから父秀敏さん(74)に替わっていた。
3年ほど経ち、結婚して子どもが生まれたころのこと。参道に並行して走る英彦山スロープカーに父と乗った。いつものアナウンスが流れた。
「英彦山は山形の羽黒山、奈良の大峰山と並ぶ日本三大修験の山でした」
なぜか引っかかった。「『でした』って、ねえ」。父が言った。
羽黒山と大峰山は、今も修験道で名をはせる。だが英彦山は廃仏毀釈(きしゃく)の嵐が激しく、神仏習合の山岳信仰は一気に廃れた。観光や登山で訪れる人は多くても、御本社である山頂の上宮は傷むばかり。「観光ではなく信仰の山に戻さないと、英彦山が死んでしまう」。そんな思いが父にはあった。
「もとの姿に戻すか」
父の言葉にうなずいた。「英彦山は般若心経の方が似合ってる」という恩師の言葉が重なった。
でも戻すって、どうやって。般若心経を車で流して覚えるところから始めた。お宮に残る古文書や書籍も開いてみたが、さっぱり意味が分からない。
「できることは行(ぎょう)(修行)しかない。実践していけば何か分かるだろう。飛び込んでしまえ」
行をするには師となる僧侶の許可がいる。真言宗の僧侶と縁があり12年に高野山で行をしたが、違和感があった。英彦山修験は天台系だったからだ。天台宗の僧侶を探した。よほどの人でないと「神職を弟子にしてどうする」と批判されるおそれがあった。
周りの尽力で縁がつながり…