物価高の中、参院選で多くの党が賃上げが必要だと訴える。しかし、企業にどうそれを促すのか、具体策の議論は深まっていない。生産性の向上が賃金に反映されておらず、労働者の不満が既存政党への批判につながっていると専門家は指摘する。
「今年は5.25%給料が上がった。これをもっと上げていきたい」。17日、長崎市の演説で石破茂首相(自民党総裁)は声を張り上げた。各地で賃上げを強調し、公約には「2030年度に賃金100万円増加」と目標を掲げた。
6日のネット番組の党首討論では、経済政策についてこんな議論が交わされた。
首相が「賃上げと投資が引っ張る成長型経済」と訴えたことに、国民民主党の玉木雄一郎代表は「政府の成長戦略が(企業が主体の)賃上げというのはよく分からない。ならば介護など(国が定める)公定価格を上げたらどうか。それもできないのに民間にやれと言うのは間違っている」と批判。すかさず首相は「賃上げする余力が企業にはある。そのことに政府も気づいてきたから(労働界、経済界代表者との)政労使会議で政府も一体で上げていく」と反論した。政労使会議は13年の第2次安倍政権で始まり、政府が経済界に賃上げを求めたことで注目された。
本来、賃金は労使交渉で決まるものであり、政策の効果は限られる。そうした中で、政府として何ができるのかが問われている。
立憲民主党の野田佳彦代表は「希望すれば正規職員になれる労働基本法改正」、共産党の田村智子委員長は「企業の内部留保への課税」、社民党の福島瑞穂党首は「労働法制の強化」といずれも企業への規制を強めるべきだと主張。一方、日本維新の会の吉村洋文代表は「社会保険料を下げれば事業主は賃金を上げることができる」として企業の負担軽減を重視した。
また、公明党の斉藤鉄夫代表は「科学技術政策の予算を倍増」を、れいわ新選組の山本太郎代表は「消費税廃止」、参政党の神谷宗幣代表は「公共事業を増やす」、日本保守党の百田尚樹代表は「安い給料の外国人労働者の流入防止」をそれぞれ訴えた。
BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏の話
最大の問題は、過去四半世紀で時間当たりの生産性が3割も上がったのに、時間当たりの実質賃金が横ばいであることだ。日本の多くの大企業には定期昇給があり、それなりに処遇されていると誤解されてきた。しかし、実際は生産性の向上は給料にまったく反映されていない。その分を大企業が内部留保としてため込んだのは、長期雇用を維持するためであったが、金銭的メリットは株主に集中している。
これまで政府は、経済政策に…