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池袋シネマ・ロサ前に立つ映画監督の安田淳一=2025年3月1日、東京都豊島区、田井良洋撮影

現場へ! 輝ける未来映画社(1)

 7月12日、第49回日本カトリック映画賞の授賞式が東京都内であり、「侍タイムスリッパー」監督の安田淳一(58)が壇上に立った。「京都から来た安田といいます」

 この映画は元気、勇気、希望を与え、赦(ゆる)し、和解の尊さも描く人間賛歌――。司祭が「いま一番足りないものを取り戻せる希望をもらった」とたたえると、安田は「光栄です」と返して言葉に詰まり、こぼれる涙を指でぬぐった。

 本作は3月、第48回日本アカデミー賞の最優秀作品賞・編集賞も獲得。大手の作品がひしめく中、自主制作で頂点に輝く快挙を成し遂げた。

 劇場公開は8月17日で丸1年。わずか1館から始まり、なおミニシアターや地方のホールで上映が続く。海外の映画祭でも絶賛され、宝塚歌劇団による舞台化も決まった。

 構想から7年、安田は長編3作目の今作にすべてをかけた。制作費は2600万円。文化庁の助成に加え、大半は預貯金をはたき、愛車も売って工面した。突き動かしたのは映画作りへのひたむきな愛と情熱。支えたのは、米作りとともに亡き父から学んだ「あきらめない心」だった。

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日本アカデミー賞最優秀賞のトロフィー

東映京都のプロの技に支えられ

 「安田さん、ちょっと撮影所に来てくれません?」

 コロナ下の2022年5月、京都・太秦(うずまさ)の東映京都撮影所。安田が小部屋に入ると名物プロデューサーに美術、衣装などのベテラン勢がずらり。制作協力を願い、自作の脚本を渡してあった。

 時は幕末、主人公の会津藩士が現代の京都にタイムスリップし、時代劇の斬られ役として周囲に助けられながら懸命に生きてゆく物語だ。

 「自主制作で時代劇と聞いたら、お金かかるからワシら全力で止めるねん。けどな、このホンはおもろい。だから何とかしたりたい」

 うれし涙をこらえる安田。夏場の閑散期なら撮影所のオープンセットが使える。刀など装身具や化粧・結髪も格安にする。ただし年内に撮り終えること。条件が付された。

 「やります!」

 同7月10日、撮影開始。安田は監督業からロケ車の運転まで10役以上を担い、東映剣(つるぎ)会のプロの殺陣に打ち震えながらカメラを回した。「時代劇史上、最も刀が重く見える作品に」。まさに真剣勝負のクライマックスは、息をのむ迫真の名場面に仕上がった。

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昨年10月、映画「侍タイムスリッパー」の拡大公開を祝い、舞台あいさつに立つ安田淳一(左端)と出演者たち=©2024未来映画社

拍手喝采、まるで昭和の映画館

 劇場上映はインディーズ映画…

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