第107回全国高校野球選手権大会が5日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開幕する。山口県代表の高川学園は10日の第3試合で、未来富山(富山)と対戦する予定。投打の要はそれぞれの夢を抱き、待ち望んだ大舞台に臨む。
遠矢文太主将(3年)には、甲子園でかなえたいことがある。
4年前の夏。高川学園の4番、立石正広さんのホームランに魅せられた。小松大谷(石川)との初戦。5点差とされながら反撃の口火を切る一打。甲子園初勝利を呼び込んだ。
テレビに映る先輩の雄姿にあこがれ、山陽小野田市の厚狭中から高川学園に進んだ。
いつか、甲子園でホームランを打ちたい――。夢をかなえるために進学したものの、「ずっとチャンスに弱いバッターでした」と振り返る。
昨夏の山口大会準決勝、南陽工との一戦。2点を追う九回2死一、二塁で代打を告げられた。この大会初めての打席に向かうと、歓声に圧倒されて、足が震えた。
2球目を打ち、内野フライに倒れた。「先輩たちの夏を自分が終わらせてしまった」。ロッカールームで泣き崩れた。
新チームの主将になると、悔しさを糧にバットを振り込み、「一球に対する集中力」を磨いた。瞬発力を高め、スイングスピードを上げることに心を砕いた。
今春の県大会こそ、初戦で南陽工に再び敗れたが、今夏の決勝で南陽工に雪辱を果たした。捕手として投手陣をリードし、主砲としてチーム最多の打点を挙げて、甲子園の切符を勝ち取った。
創価大に進んだ立石さんは大学リーグで活躍し、プロ野球の次期ドラフトで上位指名候補に挙げられる。立石さんからは主将の心構えを教わったという。
「大先輩が甲子園で放ったホームランが進学の原点。狙うわけではないけれど、自分も打ってみたい」
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木下瑛二投手(2年)には、マウンドでみせたい姿がある。高卒でプロになるために――。
高松市出身。野球好きだった兄の手ほどきで幼い頃からボールを握った。頭角を現したのは中学時代。硬式野球のクラブチームに入り、投手として活躍した。
所属リーグの全国大会を2連覇し、決勝でノーヒットノーランを達成。中学3年の時、球速は141キロに達していた。
勉強は苦手だった。学業そっちのけで野球にのめり込む息子にあるとき、父親が決断を迫った。
「このままズルズルと生活を送っていてはダメだ。野球のために高校を選ぶのか、勉強するか」
迷わず答えた。「野球一筋で」と。
有名高校から多くの誘いを受けた。高川学園を選んだ理由は、人工芝のグラウンドなど充実した練習環境と指導者の熱意。ここで力をつければ、「高卒プロ」を実現できると確信した。両親は快く送り出してくれた。
甲子園に向けて、下半身と上半身の連動性を強化した。ウェートトレーニングにも力を入れ、体重も5キロほど増えた。全身を使って投げることで球質も重くなり、奪三振数も向上した。
今夏の全試合で先発し、最速146キロを記録。甲子園切符をつかむと、父親は言った。「お前はここからやぞ」
負けん気が強く、直球で勝負を挑む。変化球で逃げるのは嫌いだ。夢舞台で、やりたいことは決まっている。
「最速150キロをマークする。持ち味の強気のピッチングでプロ野球のスカウトの目を引きたい」
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阪神甲子園球場で4日、開会式のリハーサルがあり、県代表の高川学園の選手たちも参加した。
本番と同じ午後4時にスタート。山口大会の優勝旗を持った遠矢文太主将を先頭に20人が腕を振って行進した。
スタンドでは松本祐一郎監督と西岡大輔部長が見守った。前回出場した2021年はコロナ禍のさなか。開会式の入場行進は簡素化され、リハーサルを見学することもなかったという。「組み合わせ抽選会もオンラインでした。当時と今では見る風景がまったく違いますね」と松本監督。
この日は緊張のせいか選手の足並みはいま一つ。2人は「もうちょっと元気よく行進を」「明日の本番に期待します」と苦笑していた。