Smiley face
写真・図版
参院選で候補者の応援演説を撮影する人たち=2025年7月3日、大阪府内

社会学者・藤田結子さん寄稿

 私の研究室では選挙前後に若者に聞き取り調査を行ってきました。いわゆる投票行動の統計的分析ではなく、若者が人生や政治に対してどのような思いを抱き、また日常的にどのように情報源と接しているのか理解することを目的としています。

 今回の参議院選挙では、国民民主党と参政党への若者の支持が目立ちました。なぜ10代・20代はこれらの政党に投票したのでしょうか。その背景にある感情について考えてみたいと思います。

  • 言論サイトRe:Ronはこちら

 その前に、私たちが研究の枠組みとして参考にしているアメリカの社会学者、アーリー・ホックシールドの研究を紹介しましょう。

 ホックシールドは「感情労働」という概念で知られる著名な社会学者ですが、ドナルド・トランプ大統領の支持層を分析した研究でも注目を集めました。彼女の著書『壁の向こうの住人たち(原題Strangers in Their Own Land)』は、2016年の全米図書賞ノンフィクション部門の候補に選ばれるなど高く評価されましたが、その中で提示された「ディープストーリー」という概念が鍵となります。

 これは、人々の行動や信念の背後にある、感情に根ざした物語を指します。それは、事実と異なっていたとしても、その人にとっては「真実だと感じられる」物語のことです。

 ホックシールドは、全米最貧州の一つ南部ルイジアナ州で共和党を支持する白人に5年間にわたる聞き取り調査を行い、なぜ彼らがトランプを支持するのかを理解しようとしました。リベラル派の人々は、彼らが「誤情報にだまされている」といいます。しかし、ホックシールドはその見方に限界があると考えました。彼女はディープストーリーを通して彼らの感じ方をこう描き出したのです――自分たちは長年、真面目に働き、アメリカンドリームの実現を信じて列に並んできた。ところが、その列に女性や移民など「新参者」が割り込んでくる。しかも政府やリベラル派は、その割り込みを擁護している、と。

 このような感情に注目することで、政治的態度の背景にある深層を理解しようというのが「ディープストーリー」を用いた手法です。私が運営する東京大学大学院情報学環藤田研究室でもこの手法を応用し、選挙前後に20人以上の若者に個別にじっくり話してもらったり、語りあってもらったりしています。調査結果はまだ分析中ですが、今回は院生の小田賢太郎さんと共同で実施している研究の一部を少し紹介します。

■現状への不満、変化への期待の高まり?

 まず今回の参院選では、若者はどのような投票行動をとったのでしょうか。朝日新聞が7月20日に実施した出口調査によると、年代別の比例投票先は10代が国民民主党25%、参政党23%、20代が国民民主党26%、参政党22%でした。一方、前回の参院選ではすべての年代で約4割を占めトップだった自民党は、若い世代で1割ほどに減らしました。また、投票の際にSNSや動画サイトの情報を重視した人が30代以下では6割を超えました(7月21日東京本社朝刊)。

 先行研究では、生活状況が比…

共有