(12日、第107回全国高校野球選手権大会2回戦 尽誠学園3―0東大阪大柏原)
「あ、亀や」
昨年5月中旬、東大阪大柏原の学校グラウンドを掃除中のことだった。武田龍太捕手(3年)が側溝のふたを上げると、20センチほどの甲羅が見えた。
泥まみれの亀を持ち上げ、水道へ運んだ。「亀ってたしか、幸運をもたらしてくれるんだよな――」
捕手として練習中も声を張り上げ、最後まで気を抜かない。仲間からは「ムードメーカー」と慕われる。
ただ、なかなかベンチ入りのメンバーになれなかった。
「チームとしても個人としても結果を出したい。勝ち進んでいくためには運も必要だ」
甲羅を洗いながら、周囲にいた仲間に「俺、亀飼うわ」と言った。
周囲は「まじで?」と笑い、コーチは「いいやん」と一言。近くにあったバケツに亀と水を入れ、グラウンド横で飼育を始めた。
チームに親しまれる「カシケン」に
亀の名前は、東大阪大柏原の土井健大監督の名前から「カシケン」に。
毎朝「おはよう」、練習後は「元気しとけよー」。試合前は「勝ってくるからな」と声をかけた。
バケツをよじ登ろうとする姿を見れば、最適な飼育環境をネットで調べ、透明な大きいケースに移した。最初は頻繁に替えていた水も、ネットで調べながら調節するように。水槽には大きな石を入れ、甲羅に日光が当たるようにも工夫した。
次第に亀の存在はチームに広まった。後輩は「亀のエサ持っています!」と持ち寄り、水が減っていれば練習中でも数人でケースに水を補給した。同期も「あいつ元気にしてんのか」とのぞき込んでから練習場へ向かう。
最初は甲羅に閉じこもっていたカシケンも、次第にニョキッと顔を出すようになった。
武田捕手は新チームになると、控え捕手として背番号12をもらった。投手陣をブルペン捕手として支え、「思いっきり投げてこい」とマウンドに送り出す。
甲子園を決めて「ありがとう」
今夏は接戦に次ぐ接戦を制し、大阪大会を優勝。14年ぶりの甲子園への切符をもぎ取った。
学校に帰ってすぐにお礼を伝えたのは、カシケンだ。「ありがとう」と鼻をなでた。
選手らは口々に「亀のおかげや」「亀が来てからなんか違う」。気がつけば、チームを勝利に導く「守り亀」になっていた。
12日の初戦。主将で4番打者の竹本歩夢捕手(3年)のけがの影響で、0―0の五回裏から捕手の守備についた。
自分が緊張しがちだと分かっていたからこそ、とにかく楽しもう。そう意識し、ピンチの場面ではマウンドで川崎龍輝投手(3年)の背中をたたき、「ここやぞ」と声をかけた。
球場の雰囲気にのまれそうになったとき、投手陣の声かけで何度も助けられた。「本当に頼りになる仲間たち。感謝しかない」
将来の夢は動物園の飼育員。大学進学のためにカシケンの飼育担当は1年生に引き継ぐつもりだ。
カシケンには甲子園の試合前、いつもの3倍の量のえさを与えて「頑張ってくるわ」と声をかけた。「自分やチームを守ってくれる存在」で、これからもチームも甲子園に導いてほしいと願っている。
試合後、武田捕手は笑顔でこう言った。
「甲子園は亀(神)でした!」