Smiley face
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ホロコースト生存者のピンカス・ガターさんとルネ・ファイアストンさんの映像

 7月上旬、ある人物に「会い」に、米ロサンゼルスにある南カリフォルニア大学の研究所を訪ねた。背丈ほどある大きなモニターに、椅子に座ったほぼ等身大の高齢男性が浮かび上がるように映し出される。「ハロー」とあいさつすると、「ハロー」と朗らかに返ってきた。「あなたは誰?」と尋ねると、「私の名前はピンカス・ガター。ホロコースト生存者で、今はトロントに暮らす老紳士です」とほほ笑んだ。

 まるでオンラインでつながって会話しているかのようだが、実はすべて事前に撮影された映像だ。こちらの問いかけに最適な回答を、人工知能(AI)が選んで再生する。ただし、学習したデータをもとに文章や映像をつくり出す生成AIではなく、映像も音声もすべて本人がカメラの前で話した「ありのまま」が映し出される。同大のショアー財団が取り組む「Dimensions in Testimony(DiT、証言の次元)」というプロジェクトだ。

【GLOBE特集】記憶と記録

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ホロコースト生存者のピンカス・ガターさんの映像と「対話」するデイビッド・トラウム教授=2025年7月1日、南カリフォルニア大学クリエーティブ・テクノロジー研究所、荒ちひろ撮影

 ショアー財団は、映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏が「シンドラーのリスト」(1993年)の公開翌年に立ち上げた団体で、ホロコースト生存者らの証言映像の記録・保存に尽力してきた。ルワンダやカンボジアなど世界各地で起きたジェノサイド(集団殺害)の証言の保存にも取り組む。これまでに69カ国、44言語で収録した6万人近くの証言映像のアーカイブを誇る。

 収集して保管、公開してきた11万6千時間超(13年分相当)に上る記録の中でも、DiTは証言を「対話型」で展示する新しい試みだ。ホロコースト生存者の高齢化が進み、残された時間が少なくなる中、「時間や場所といった制限を超えた、新しい証言の次元をつくりだしたかった」。考案者で展示デザイナーのヘザー・メイオ・スミスさん(58)はプロジェクト名の由来をこう説明する。

対話が生む「心のつながり」

 きっかけは09年末、ある生…

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