(21日、第107回全国高校野球選手権大会準決勝 日大三4―2県岐阜商 延長十回タイブレーク)
延長十回表、日大三は1点を勝ち越して、なお1死一、三塁の好機が続く。打席に向かう桜井春輝(3年)は「1点じゃ分からない。もう1本」と気を引き締めた。
目の前でタイムリーを打った近藤優樹(同)は、中学のときからのチームメート。中1の秋、別のチームから近藤が移ってきたときのことは、鮮明に覚えている。体験入部にもかかわらず、いきなり試合形式の練習で投手を務めた。当時から制球力は抜群で、変化球の切れもあった。
チームを卒業するときに近藤からもらった手紙には「一番信頼しているから」と書いてあった。ともに日大三へ進むことになり、「いっしょに甲子園をめざそう」と誓い合った。
誰にも負けないと思えるほど、練習に打ち込む。そして、近藤は背番号「1」を、桜井は二塁手のレギュラーをつかみ取った。「近藤は自分に自信をもっているので、相手の雰囲気にのまれない」。近藤は、桜井から見ても本当に頼もしいエースへと成長した。
憧れの甲子園へ来てからも、近藤は2試合連続で完投するなど好投を続けた。一方、桜井はなかなかヒットが出ない。「バットの芯ではとらえている」。焦らずに自分の打撃を貫いた結果、準々決勝では2安打を放った。
ほっとすると同時に、この日の準決勝には「今日も打てる気しかしない」と前向きに臨むことができた。迎えた十回表の打席。狙っていた直球をとらえると、打球は右前へ。差を2点に広げる貴重な適時打となった。
近藤の力投もあり、日大三は3度目の夏の全国制覇に王手をかけた。桜井は「一人ひとりが自分の役割を理解している」と強さの理由を語る。「ここまできたら優勝したい」。中学からの盟友と歓喜の輪をつくるまで、あと1勝だ。