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 部屋の中には、壁に沿って人の身長ほどの高さの棚が並ぶ。窓はない。静かな室内に空調の音が響く。

 頭から足首まで防護服に身を包んだ黒川伊織さん(32)と内山夏実さん(30)が棚から、プラスチックのケージを次々に取り出していく。中には5~6匹のマウスが入っている。

 ここは、東京都新宿区にある国立健康危機管理研究機構の動物実験施設だ。感染症や遺伝性疾患といった病気の解明に向けた研究が進められている。

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週に1度はケージ交換を行う。かまれることもあるため、しっぽを持つ。黒川さんは「しっぽの先は負荷がかかるので、できるだけ根元を持つようにします」=2025年7月10日、東京都新宿区

 黒川さんが、マウスのしっぽの根元をそっとつかんで、慣れた手つきで別のケージに移していく。マウスの生活環境を清潔に保つため、週に1度はこうして洗浄・滅菌したケージへ替える。エサを補充し、水を飲むための給水器に異常がないかの点検も欠かさない。

 「こういう場所で働く人ってどこか冷徹なイメージがあるかもしれません。でも実際は私も含めて生き物が好きな人が多いです」

1万匹を超える動物の健康状態をチェック

 施設内には現在、約1万2千匹のマウスと約700匹のラットが飼育されている。一つ一つのケージに、実験を行う研究者の名前や中に入った動物の数を記したラベルが貼られている。人と同じ哺乳類で、体が小さくて飼いやすいマウスやラットは、動物実験に使われることが多い。

 飼育担当者が動物の示す異常や行動を1日見逃すだけでも、その研究に支障が出ることもある。ほぼ毎日、「健康チェック」として、すべての動物の状態を目視で確かめる。何か変化があれば、すぐに担当の研究者に報告する。

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ほぼ毎日、施設内で飼育するすべての動物の様子を確認する=2025年7月10日、東京都新宿区

 生き物好きとしては、いつも…

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