Smiley face

 囲いに入った真っ黒な牛の額に、銀色の銃のような形の装置が押し当てられた。「ピシュ」という音の後、どう、と転がった体は床の上ですでに動かない。牛の意識を失わせる「スタンニング」と呼ばれる作業だ。

 和牛マスター(兵庫県姫路市)の川久通隆取締役(72)が「痛みを感じないよう、脳に刺激をあたえて昏睡(こんすい)状態にしています」と説明してくれた。

 すぐに後ろ脚のワイヤーで逆さづりになった牛ののどを、白い作業着を着た職員がナイフで切り、放血させた。1分ほどの間だった。

写真・図版
枝肉から余分な組織を除く作業=兵庫県姫路市、杉浦奈実撮影

 住宅街にある和牛マスター食肉センターは、一見すると工場のようだ。クリーム色のビルがそびえる構内に入ると、芝生の先に石造りの慰霊碑が立つ。

動物福祉に沿った扱い「国内でも今後は」

 ここでは1日に100頭以上の牛が解体される。皮をはぎ、内臓を取り、背骨のところで二つに割って枝肉に。各工程でそれぞれの担当者が素早く、かつ注意深く手を動かす。

 放血作業にあたる職員の傍らでは、別の職員が牛の様子を注意深く眺めていた。「責任者が、瞳孔の様子などを見て牛が本当に意識を失っているか確認しているんです」と川久さん。獣医師の資格を持ち、動物福祉(アニマルウェルフェア)の取り組みの担当者でもある。

 和牛マスターは、2017年から海外へ和牛を送り出している。輸出には輸出先の国に応じた処置が必要で、特に米国や欧州連合(EU)向けに、動物福祉のルールに準じた扱いを徹底している。川久さんは獣医師としての思いだと断った上で、「国内でも、今後畜産業を持続可能にしていくには、動物福祉が不可欠になるだろう」と話した。

手間かかる対応 大きくない付加価値

 トラックに乗せられてやって…

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