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料亭などでも使われるかつお節の「本枯節」を作る山吉国沢百馬商店の技能実習生ら。手慣れた様子で、煮たカツオから手作業で骨を取り除いていた=2025年5月13日午後3時22分、鹿児島県指宿市山川新栄町、小川聡仁撮影

 伝統的なだし素材「かつお節」。日本の食生活に欠かせないが、外国人がいなければ食卓に届けられなくなっている。何が起きているのか――。人手不足が深刻な生産、加工の現場を訪ねた。

 東京から南に約3千キロ離れた中西部太平洋の赤道付近。水産加工大手ニッスイの子会社、共和水産(鳥取県境港市)は、2隻の海外巻き網船でこの海域に出かけ、平均25日間ほどかけてカツオ数十万匹を水揚げする。

 「第78光洋丸」は全長約80メートル、幅14メートル。乗組員約30人のうち、半分近くはインドネシアやキリバス、ミクロネシアなどの外国人だ。

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焼津港で停泊した船からカツオを運び出す外国人船員ら=2024年9月27日午前8時2分、静岡県焼津市、ニッスイ提供

 日本の船を海外の法人に貸し出し、その法人と雇用契約を結んだ外国人に乗組員として働いてもらう「漁船マルシップ」制度を活用する。人手不足や高齢化に伴い、国が認める仕組みだ。

 船内には8カ国語で書かれた貼り紙もあり、イスラム教を信仰するインドネシア人のため、食事では豚肉ではなく、鶏肉や魚を出す。海外まき網船の元乗組員で、海外まき網事業部長の内藤善直(よしなお)さん(52)は「日本人船員の高齢化が進み、若くて体力のある外国人船員が欠かせない。長く働いてもらうため、船内設備を改めている」と話す。

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料亭などでも使われるかつお節の「本枯節」を作る山吉国沢百馬商店の技能実習生ら。手慣れた様子で、煮たカツオから手作業で骨を取り除いていた=2025年5月13日午後3時24分、鹿児島県指宿市山川新栄町、小川聡仁撮影

 鹿児島県枕崎市や静岡県焼津市と並び、かつお節の「三大産地」と呼ばれる鹿児島県指宿市。老舗かつお節業者、山吉(やまきち)国沢(くにさわ)百馬(ひゃくま)商店の工場では5月中旬、三角巾をかぶり、マスクを着けた従業員らが、煮込んだカツオの骨をピンセットで一本一本抜いていた。

 製造に関わる18人のうち、13人が日本人、5人が技能実習生。1人がベトナム、4人がインドネシアの出身だ。

 専務の国沢知洋さん(45)によると、加工したカツオを繰り返しカビ付けし、乾燥させる「本枯節」を出荷するまでには15の工程がある。魚の大きさや形には個体差があるため、手作業が多く、人手が欠かせない。

 2010年ごろ、将来的な人手不足を見越し、中国から実習生を受け入れ始めた。だが、中国国内の所得が上がり、東京などの求人も増えると、次第に応募がなくなった。実習生の出身国はベトナムやインドネシアに変わっていった。

 国沢さんは「うちはまだ日本人が多い方。半分以上、外国人に頼らざるを得ない同業者もいる。(外国人が)いなくなれば、生産量は半分くらいになるかもしれない」と話す。

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山吉国沢百馬商店の国沢知洋専務=2025年5月13日午後3時19分、鹿児島県指宿市山川新栄町、小川聡仁撮影

 午前6時半~午後4時半に働き、月収は1年目で約16万5千円。昇給やボーナスもある。インドネシア出身のアルバニア・ソフィアンさん(24)は「地元で働いても月2、3万円しか稼げない。日本で働きたかった」。冬の寒さや重労働に苦労は尽きないが、実家に仕送りができる給与の高さが最大の魅力だ。

 国沢さんは毎年、海外に赴き、面接で仕事の大変さを伝えた上で採用している。「日本人と同様に接する誠実さが大事」という。

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料亭などでも使われるかつお節の「本枯節」を作る山吉国沢百馬商店の技能実習生ら。いぶしたカツオを屋外に並べ、天日干しにしていた=2025年5月13日午後3時14分、鹿児島県指宿市山川新栄町、小川聡仁撮影

 総務省と厚生労働省の統計から試算すると、日本で働く労働者のうち外国人の割合は、リーマン・ショック後の09年は「112人に1人」だったが、24年には「29人に1人」に高まった。漁業は「391人に1人」から「19人に1人」に、食料品製造業は「33人に1人」から「7人に1人」になった。

 日本の人口は08年の1億2808万人をピークに減少が続く。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、70年には8700万人まで減る一方、外国人の割合は1割を超える見通しだ。

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