世界遺産登録をめざす彦根城(滋賀県彦根市)の今年度の国内推薦が見送られることになった。文化審議会が26日に決めた。1992年に国内候補の暫定リストに載ってから30年以上。県や市が目標とする2年後の登録は難しくなったが、県も市も「あきらめない」と再挑戦を誓う。
世界遺産に登録されるには、国内候補の暫定リストに載っているなかから、まずは国内推薦に選ばれなければならない。そのうえで、ユネスコの諮問機関のイコモスの現地調査や勧告を受け、世界遺産委員会で登録の可否が審議される。彦根城は今年度の国内推薦が見送られた。
県や彦根市が会見「遺憾で残念」
その知らせを受け、県の担当者が夕方に会見を開いた。
県文化財保護課の木戸雅寿参事員は「彦根城の価値がいまだ国内の議論にとどまったまま、世界の場へと送り出されなかったことについては誠に遺憾で残念に思っている」と肩を落とした。
そのうえで「文化庁の指導に従い、時間とマンパワー、費用をかけて推薦書案の作成に努力を続けてきただけに落胆は大きい」と述べた。
これまで県や市は、登録を確実にするため、イコモスから助言を受ける事前評価制度を使った。天守、堀、石垣、大名庭園のほか、御殿、重臣屋敷の遺構が残り、江戸時代に大名の統治で平和を実現したことを示す唯一の資産が彦根城だと、説明を尽くしてきた。
ただ、文化審議会では「説明の充実を図ること」が課題とされた。彦根城の持つ価値をはじめ、客観性や定義についての説明が不足していると指摘された。
木戸さんは「必要な資料はそろっている。どう整理し、どういうロジックで相手に理解しやすく説明するのか。もう一歩のところまできているので、目標に向かって取り組んでいく」と話した。
三日月大造知事は「登録はもうすぐ手が届くところに着実に近づきつつある。早期の登録を実現させるため、国や市とともに、新たな気持ちで、全力で取り組む」とコメントを発表した。
彦根市長「国内推薦手続きの9合目過ぎた」
彦根市の田島一成市長も臨時に会見した。「驚きと深い遺憾の念を抱いている」と無念さを口にした。
一方で「国内推薦手続きの頂上が見えてきた。9合目を過ぎて引き返すのは早い。機運を盛り上げ、文化庁や文化審議会に熱意を伝え、あと一歩頑張ろう」と前を向いた。
市によると、彦根城単独での登録方針に変わりはなく、推薦書案の進展も評価された。
市彦根城世界遺産登録推進室の三尾次郎室長補佐は「私たちが自明として書いたことが海外の専門家に客観性がないとされる可能性や、大名統治の説明で定義や条件をしっかり示すべきだと受け止めた。課題は解決できる」と語った。
文化審議会が指摘した彦根城の課題
・一定範囲の城を抽出する線引きの妥当性や客観性でイコモスから指摘を受ける可能性がある
・遺存状況が良い城の絞り込みで、客観性に疑義が生じないよう説明の充実を
・大名統治システムの概念を十分な根拠をもって説明する