19世紀のカナダの風景と街並みを再現したテーマパークが、北海道にある。ベストセラー小説「赤毛のアン」がテーマの芦別市のカナディアンワールドだ。バブル全盛期につくられたが、開業からわずか8年で休園。市営の無料公園を経たいまは、有志が運営する。今春から、知名度を高めようとアンを愛する女性たちは「推し活」による「聖地」づくりを始めた。
北海道のほぼ中央に位置するJR芦別駅から車で15分。入り口に人はいない。駐車料金として500円を払って入園する。東京ディズニーランドとほぼ同じ48ヘクタールの敷地に点在する建物の多くは、小説の世界観を再現したものだ。
オープンから35年。道はでこぼこで、雑草も目立つ。しかし、東京都内の女性(54)はうれしそうだ。4月から仲間と、園内にある「アンとダイアナの手紙屋さん」の運営を始めた。「ここで過ごすことは、私の究極のアン活(アンの推し活)です」
仕事の合間をぬって、飛行機と鉄道を乗り継いで訪れるファンの一人だった。作者のモンゴメリが通った郵便局を再現した店が閉まると知り、後継を買って出た。「ここはアンの生活や人生を疑似体験できる場所。身を置くたびに、アンを好きになる新しい要素が見えてくるんです」
店の共同運営者の北海道滝川市在住の女性(53)は子どものころ、村岡花子訳の新潮文庫シリーズを年1冊ずつ買うのが楽しみだった。アンの小説の魅力を「丁寧な暮らしが描かれている点」と語る。オープン当初に訪れたときは「お金もうけの場所」と感じ、足が遠のいた。
破綻(はたん)を経て少し寂れたいまの雰囲気のほうがアンの世界観に合致していると感じる。「アンが好きな人は絶対に感動すると思う」
ポストカードの販売や未来に出す手紙の受け付けも行う店内には、アンの老舗ファンクラブ「バターカップス」の会員から送られた応援メッセージが飾られている。
会員歴30年超の田丸有子さん(56)も店の共同運営者だ。東京から月1回、店番のために訪れる。手紙の書き方コンサルタントとして、手紙を書く喜びを体験してもらうワークショップも開く。「SNSではない、アンの時代のアナログの良さが、ここにはあります」
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カナディアンワールドがある芦別市は、かつては炭鉱の町だった。三井芦別炭鉱の閉山を受けて、石炭産業に頼らない新たな地域再生策を模索した市が飛びついたのが、テーマパークづくり。
1990年当時はバブル景気…