突然ですが、みなさんはどのように就職先や転職先を決めましたか?
今回のテーマは「進路を決める方法」です。
- 連載「上手に悩むとラクになる」
今の子どもたちは、私たち大人の世代が経験したよりうんとキャリアに関する教育を受けています。
職場体験に始まり、書店をのぞけば仕事図鑑のような各職業について詳しく解説された本がたくさん並んでいます。体験と情報源がこれほど豊かになると、きっと子どもたちも自分のキャリアを描きやすくなったと思うのです。
ですが、実際はどうなのでしょう。
国立青少年教育振興機構が2023年に行った高校生の進路と職業意識に関する調査によると、日本の高校生は、米国、中国、韓国と比較して、「仕事」「働くこと」のイメージは「生活のため」「社会人としての義務」が強く、楽しいと思っている人が少ないこと▽今の生活に満足しているが、将来への不安が強いことなどがわかっています。
調査からは、今の高校生が働くことにそんなに乗り気でないこと、マイペースにプライベート中心で生きていきたいこと、でもそれでは将来が不安……と悩んでいる様子が見えてきます。
このような心境の高校生に、「進路は自由に決めたらいい」と膨大な適性検査や大学などの進学情報(国内だけでなく留学も)、職業の情報が洪水のように押し寄せるのですから、本人たちは「できれば働きたくないんですけど……。こんなに選択肢を出されても困ります。情報の海に溺れそう。どうしたらいいんですか」と混乱するわけですね。
でも不安だから、「じゃあ親のいうこと聞いておこうかな」などという外的基準で無理やり決定しようとするのかもしれません。その結果、入学後や就職後も、やりがいを感じずに悩むのかもしれません。
やりたいことは、必ずしも仕事でみつけなくとも、身近な人との愛情の中で、趣味の中で、日々の生活の中で、美術作品や文学作品の中で見つける人も大勢います。
しかし、労働時間は人生の中でかなり長時間で大きな割合を占めます。もう少しだけ、働くことの魅力を若い世代に知ってもらえたらうれしいなと考えています。
どんな人生にしたい? 大事なものを明確にするには
さて、そのためにはどのようにキャリアを考えるとよいのでしょう。
私は時々ですが、中高生のオンラインカウンセリングも行います。その中で、ご本人から「好き」を見つけ出すお手伝いをしています。
職業選択の難しいところは、「今日食べるランチは何にしよう」のような自分の好みだけでは選べないし、ある程度の期間、その選択肢で人生をやっていくことになるし、生きていくための術である限り、ある程度の報酬が発生しないといけない(つまり社会からのニーズがあるかどうかが大事)ので大変なのです。
そのため、中高生と将来の話をするときには、「こういう時はね、ゴールから決めていくといいの。目先のどの高校、大学にいくっていうのは手段にすぎなくて。壮大なテーマになるけど、どんな人生にしたいか。人生で何を大事にしていきたいかから決めると、手段は後から決まってくるんだよ」と話します。
どんな人生にしたいか、何を大事にしたいかをいったん明確化することで、どんな進路に進むか、仕事をするかといった選択肢を、本当に必要なものに絞りやすくなりますよ。
もちろんいろんな経験を経て、「実際やって見たら違った」ということもあるでしょう。私もそうでした。試行錯誤して、補正していくことも想定しています。
しかし、多くの人が大事にしたいものを明確化をせずに、ぼんやりしたまま「選択肢は多い方がいい」という最も一般的なセオリーを信じすぎているように思います。
では、どうしたら大事にしたいものが明確になるのでしょうか。
そのためには、早いうちに「好き」を見つけて、さらに「向いている」を見つけて、「求められる」を見つける。そして、この三つが合致したところを見つけるべきでは?と思っています。
いきなり出てきた三つですが、それぞれお話ししますね。
「好き」「向いている」「求められる」合致するのは
ひとつめは「好き」です。
専門的には、志向性や価値と呼ばれるものです。
「従来通り前例どおりが安心して好きなのか、革新的で初めてのことにわくわくするのか」「利益を得たいのか、社会貢献したいのか」「成果を上げて評価されたいのか、人を助けたいのか」「感謝されたいのか、だれかを導きたいのか」など、自分が人生で何に惹(ひ)かれて、わくわくするのかを明らかにします。
小学生の頃、寝食を忘れて夢中になったものにヒントが隠されています。
あの頃は、「将来の仕事に役立ちそう」などと考えずに、夢中でカブトムシを追っていたかもしれません。もっとそれを深掘りしていきます。同じ「カブトムシが好きだった」という行動の裏には、さまざまな価値が横たわっている可能性があります。
たとえば、「カブトムシがどんな生活をしているのか、大自然の原理を明らかにしたくてワクワクしていた」のか「お父さんと一緒にカブトムシを探すワクワクがメインで、お父さんに優しくされたことがうれしかった」のか。「カブトムシを捕まえて、友達にすごいなと言われたかった」「カブトムシを販売して利益を上げたかった」などです。
それぞれ「真理追求」「愛」「承認」「利益」など、求めていた価値は違うのです。よくある人生の価値のリストから選ぶ方法もあります。私は、書店に出向いて自然と足の止まるゾーンからあぶり出す方法も好きです。
また、嫌いな人を5人ほど挙げてもらい、その人たちの共通点を探して、裏返せば自分が大切にしている価値が出てきます。ぜひ試してみてください。
ふたつめは「向いている」です。
専門的には特性と呼んでいます。もともと生まれつきもっている得意なところです。
特技などないとおっしゃる方もいますが、大雑把にタイプで分けて自己理解をしておくといいでしょう。
たとえば「繰り返し作業をいとわないタイプなのか、あれこれ新しいことに向かっていけるのか」とか、「仕事や自分なりに工夫して自由なやり方で行いたいのか、マニュアルが用意されているなどやり方が決められている方が安心するのか」「伝統的で保守的な企業風土でうまくやれたか、革新的なところでうまくやれたか」などがそうです。自分の中では普通と思っている感覚も、他の人との比較で明確化されます。
ここで混同されやすいのは、「好き」ではなく「それでうまくやってこられたかどうか」です。もうすでに過去に成功経験があるものが「向いている」ということです。ここでは、そんなに努力せずに「これ普通でしょ」とやれてきたことを重視します。
具体的には、心理検査を使うこともあります。どんな能力があるのか、数値で出るため怖いですが、非常に役立つ資料になります。
また、自分史も書いてもらいます。幸せな時期が上向きに、不幸せな時期が下向きになるような浮き沈みグラフです。その幸せな上の波の時期に何があったのかをひとつずつ聞いてきます。すると、波の共通点が見えてきます。人生の早期から「人に愛されたい」が軸で「誰かと一緒に力を合わせて何かを成し遂げる」とうまくいっていたんだなあなどとその人らしい幸せポイントが見えるのです。
最後に「求められる」です。
これは、これまでの人生で自分が望まなくても周囲から自然に期待されてきた役割です。
「ほんとは目立ちたくなかったのに、なぜかいつも学級委員に指名されていた」とか「きづけばいつも2番手でだれかをフォローする役割になってたな」「相談されることが多かったな」「縁の下の力持ちだったな」「人と人の間を取り持つことが多かったな」などがそうです。
周りからの誤解も含めて、どう見えているかはある程度あらがえないもので、それもひとつの「自分の向いているもの」としてちょっと考慮に入れておくのです。
以上の「好き」「向いている」「求められる」が合致したところが、仕事になるのでしょう。
いいですよね。自分が好きで、向いていて、確かに社会に求められた役割が仕事になっていたら、こんなに幸せなことはありません。
大きな重いテーマですし、数年また数十年がかりで模索して、ちょっと試してみて、また方向転換もするかもしれないでしょう。でも少しずつコツをつかんで自己分析することは、楽しい職業人生への近道です。
〈参考文献〉
「高校生の進路と職業意識に関する調査報告書〔概要〕―日本・米国・中国・韓国の比較―」
https://www.niye.go.jp/pdf/gaiyou230622.pdf?utm_source=chatgpt.com
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このコラムのような進路決定を含む意思決定について著者が解説した本が新しく出ました。
「マンガで挑戦とっちらかった頭の中を整理して決められる人になる」(中島美鈴著・あらいぴろよ絵 主婦の友社)
https://books.shufunotomo.co.jp/book/b10136505.html
〈臨床心理士・中島美鈴〉
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。