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このコラムは……

何かと慌ただしい毎日、ニュースの消費サイクルも分単位に。そんな時代だからこそ、本社コラムニストの山中季広編集委員があえて長い時間軸で過去と現代を見つめ、迫り来る未来を考えます。

 散乱しているのは、かじられて間もないリンゴの皮や芯。枝は折られ、幹には爪の跡が。残されたフンの量感に驚く。

 秋田市河辺にある果樹園でツキノワグマによる食害の実態を見た。

 「やられたのは昨夜か今朝。わせ種『つがる』だけを狙っている。熟していない他品種には手も触れていません」

 一休農園を経営する島田雄一郎さん(51)は侵入防止の電気柵を張りめぐらせた。だがクマは用心深い。枝伝いに飛び込んだり、地下の古い土管からもぐりこんだり。巧みに感電を避ける。

 過去にはレーザー光を飛ばし、ラジオを夜通しで流したが、効き目は限定的。「僕ら果樹農家には毎日が命がけの知恵比べ。危ないからアルバイトも雇えない。かじられたリンゴの損害も大きい。本当に困っています」

 林野庁は7月、今秋の東北のブナの実りを大凶作と予報した。ミズナラやコナラまで凶作となればクマはエサに窮する。

 「その秋の豊凶をクマは春先に察知します。林野庁よりも早い。凶作とわかれば春や夏から人里に現れます」と秋田市の写真家、加藤明見さん(76)。クマを追って30年。狩猟者らと連携し、警戒先には感知式カメラを設置してきた。

 加藤さんの案内で、日本海に近い土崎港のスーパーを訪ねた。昨年11月末、侵入したクマが従業員にケガを負わせ、丸2日間も居座った店だ。

 加藤さんによれば、クマは自ら意図して店を襲うわけではない。たまたま安全圏から迷い出し、人と鉢合わせをしてパニックに陥ったとしか思えないと話す。

 周囲を歩くと、安全圏らしき草地がスーパーの近くに迫っていた。貨物専用の線路の跡だ。廃線となって雑草が茂り、クマの通り道に。スーパー侵入は、人間社会の撤退が招いた帰結の一つだったのかもしれない。

 「今年で終戦から80年ですが、クマから見ると前半40年と後半40年で生息環境が激変しました」。そう解説するのは、東京農工大教授の小池伸介さん(46)。

 かつてクマと人の生活圏は里…

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