刑事事件のDNA型鑑定をしていないのに、したかのように見せかけるなどの不正を繰り返したとして、佐賀県警は8日、科学捜査研究所の40代の技術職員を懲戒免職とし、虚偽有印公文書作成や証拠隠滅の疑いで書類送検したと発表した。
県警によると、職員は2012年に採用され、632件のDNA型鑑定を担当し、うち17年以降、130件で不適切な行為があったという。
うち、実際は鑑定していないのに、したように装い、DNA型が検出されなかったことを示す書類を作った事例が9件あった。職員は「早く取り扱いが終わると考えた」と話しているという。
ガーゼ片などの鑑定資料の余りを鑑定後に紛失し、代わりの物を警察署に返すなどした事案も4件あった。県警はこれら計13件については特に悪質性が高いとして、書類送検した。
他の不適切行為は、書類に異なる日付を記したことなどだった。
昨年10月、上司が書類の不備に気づいたことがきっかけで問題が発覚。資料が残っている124件について県警が再鑑定し、当初の鑑定と食い違う結果が8件あったが、いずれも個人の特定には至らなかったとして県警は「捜査に影響はなかった」との見解を示した。
また16件の鑑定結果は検察庁に送られていた。県警は、鑑定結果に影響がない範囲内の不正だったため「公判への影響はない」としている。
識者「正確な証拠を得る機会を失した可能性」
元警察大学校長で京都産業大の田村正博教授(警察行政法)の話 DNA型鑑定に対する信頼に影響を与えかねない不祥事であり、悪質性が高い。とりわけ鑑定を実施したと偽ったことは、正確な証拠を得る機会を失した可能性がある。
事件発生から時間が経過した後にDNA型が証拠となり、真相に近づくこともある。DNA型鑑定の本質は客観的な事実を記録することであり、鑑定の結果に直接影響しない部分でも、すべての点を記録しなければいけない。
科学捜査研究所は他の部署に比べて人事異動が少なく、閉鎖的になりがちだ。職場環境の風通しを良くして、立場の上下に関わらず、意見を言いやすくする努力がより一層、求められる。