奈良時代前期、遷都間もない平城京の整備に務めた女帝、元正天皇(680~748)。「続日本紀」には、彼女が離宮の和泉宮(珍努宮)を訪れた記述が何度も登場する。大阪府立弥生文化博物館(同府和泉市)で開催中の企画展「大園(おおぞの)―古代王権の地域デザイン―」では近年の発掘調査の成果から、同館近くの大園遺跡が和泉宮の候補地として紹介されている。
大園遺跡は大阪府の泉大津、和泉、高石3市にまたがる旧石器時代~中世の複合遺跡。古墳時代には土器や埴輪(はにわ)の生産・流通の基地となり、ヤマト王権の直轄地的な地域だったとみられる。
近年の調査では、直径1・2メートルもあるヒノキをくりぬいた立派な井戸枠が出土し、年輪から715年に伐採されたものと判明。古墳の一部を奈良時代に改造して作られたとみられる池のある庭園跡や、宮都以外ではほとんど見つかることがないトイレの遺構も見つかった。
企画展では、これらの遺構が元正天皇の「和泉宮」の一部と推定されると紹介している。
元正天皇は平城京遷都を進めた母・元明天皇に譲位されて715年に即位。翌年、河内国(現在の大阪府北東部~南部)の一部を分割して「和泉監(いずみのげん)」を置き、和泉宮の運営に当てた。弟も文武天皇として即位した元正天皇は、即位前から皇族の中でも地位が高く、和泉宮も彼女個人が相続した土地に営まれた離宮だった可能性があるという。
企画展では同遺跡で多数出土したタコ壺や漁網のおもりも展示。豊かな海の幸に恵まれた離宮の暮らしがうかがえる。9月21日まで。入館料一般430円、65歳以上と高校・大学生330円。