クモの巣のように張りめぐらされた路地裏に、年季の入った住宅がびっしりとひしめき合う。
3月下旬、1600万人が暮らすトルコの最大都市イスタンブールでも、有数の人口密度の高さで知られるギュルテペ地区を訪ねた。その一角に住むハサン・キュチュクギュレルさん(63)は、築約50年の自宅アパートの前の喫茶店で紅茶をすすりながら肩を落とした。
「このあたりの8割ぐらいの建物は崩れると思う。みんな、危険だとわかっていて住んでいます」
イスタンブールで発生する確率が高いとされる大地震についてどう思うか――。そう問うた私への返答だった。
85平方メートルの3LDKに、妻と娘と家族3人で暮らす。リビングの柱や浴室の天井には、自分でひび割れを修繕した跡が残る。家の前の道路を大型トラックが走ると、建物全体が揺れるのがわかるという。
3年前に脳梗塞(こうそく)を発症し、体の一部にまひが残っている。できる範囲で便利屋業を営んでいるが、収入は多い時で月計1万5千リラ(約7万円)。「(耐震性の高い住宅に住む)金持ちは生き延びられても、私たちのような貧乏人には行き場がない。地震が起きたら死ぬしかありません」
トルコは日本と並ぶ世界有数の地震国だ。2023年2月にイスタンブールから約800キロ離れたトルコ中南部を震源に発生したマグニチュード(M)7・8の大地震では、国内で5万3千人以上が犠牲になった。
この経験を経てトルコではいま、「次はイスタンブール」との危機感が高まっている。
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「2030年までに64%の確率で大地震」
イスタンブールは、トルコ北部を東西に貫く北アナトリア断層のほぼ真上に位置する。このため、歴史上何度も大地震に見舞われてきた。
近年では、1999年にイス…