難民としての受け入れを求めてきた人びとを、第三国に強制的に送る――。こうした措置を可能にする法律が4月、英国で成立しました。7月にも東アフリカのルワンダへの移送を始めるとしています。このように難民申請者を別の国に振り向けることはできるのか、第三国はなぜこうした「転送」に応じるのか。移民・難民問題に詳しい上智大学の岡部みどり教授(国際政治)に聞きました。
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――難民申請者の第三国移送の議論はいつごろから生まれたのでしょうか。
「第三国(third country)」という言葉は欧州の移民・難民政策の文脈で1990年代以降に生まれたと考えます。欧州では「シェンゲン協定」(現在29カ国が参加)が結ばれ、参加国間で人の自由な移動が認められました。「シェンゲン圏」と呼ばれます。
この結果、シェンゲン圏にたどり着いた人々はドイツなど一部の裕福な国を目指して集中するようになりました。こうした状況を受けて97年、難民申請は最初の到着国が手続きの責任を負うとする「ダブリン条約」が発効しました。
すると今度は、シェンゲン圏の最も外側に位置するイタリアやギリシャに負担が集中することになり、EUは域外の「安全な国」に負担を分担してもらうことを考え始めたのです。「第三国」です。
シリア内戦などによる2015年の欧州難民危機を経て、翌16年にEUとトルコの間で、トルコからギリシャへの非合法入国者をトルコに送りかえす代わりに、トルコから同じ人数のシリア難民をEUが受け入れるという合意がなされました。
これに先立つ01年、オーストラリア政府はボートで海を渡ってきたアフガニスタン人らをパプアニューギニアとナウルに移送する協定を両国政府と結びました。しかし、申請者の扱いや収容施設の環境に問題があり、批判を受けました。
英政府が移送にこだわる理由
――英国の新法では、ルワン…