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スニーカーで出席する新入社員の姿も見られた入社式=2024年4月1日、東京都内

「石の上にも三年」は今①

 「超早期離職」という言葉が生まれたり、退職代行サービスの活況が報じられたり、「すぐ辞める若者たち」に注目が集まっています。背景を掘り下げると、どんな実態が見えてくるのか。若者の雇用などについて研究する労働政策研究・研修機構の主任研究員、岩脇千裕さん(47)に聞きました。

どんな仕事も3年続ければ道が開け、成功にもつながる――。日本で長く流布してきた「石の上にも三年」、社会や働き方が変わる中でどう考えてゆけばいいのでしょうか。インタビューシリーズでお届けします。

 ――厚生労働省の調査を見ると、大学新卒者の3年以内の離職率は3割ほど、1年以内は1割台で推移し、データ上は大きな変化が見られません。

 この統計は正社員に限らず雇用保険の加入状況で測っており、雇用保険に入っていない場合が多い試用期間中に辞めた場合は、統計対象になりません。最近言われる「超早期離職」が、入社後数カ月の離職を指すとしたら、この統計では把握しきれません。

若年労働者人口、2007年→17年に78万人減

 そのうえで言うと、そもそも若年労働者の人口が減っています。総務省の就業構造基本調査によると、15~24歳のうち、学校に通わず雇われている人の数は2007年から17年にかけて約78万人減りました。うち正規雇用者は、66.8%から74%へと大幅に増えています。

 少ない人数で会社の機能を維持しなければならない状況で、今の若者は正社員になりやすくなっています。

 バブル期に若者を9人雇って3人が辞めた場合と、今3人を雇って1人辞めた場合を比べると、離職率は同じ33%ですが、「辞められて困る」という体感は今の方が強くなる。若者の人数がとにかく少ないことが、離職が問題視される背景にあるでしょう。

 また、3年以内離職率は事業所規模が小さいほど高いのですが、近年、1千人以上の事業所では高卒、大卒ともわずかながら増えています。大企業はもともとは「うちはそんなに若者が辞めない」という認識だったでしょうから、そのギャップで離職が増えていると感じやすい面もあるのではないでしょうか。大企業には発言力があり、メディアに取り上げられやすいのだと思います。

 若者雇用促進法によって、少なくとも卒業後3年以内は新卒扱いとすることが義務づけられ、早期に離職した若者の再チャレンジの機会は広がりました。転職サイトのCMがこれだけ流れるようになると、転職という選択肢を始めから頭に入れて就職する若者もいるでしょう。

 若者がどんな産業に出ていくかにも質的な変化があります。

 ――どんな変化でしょうか。

 ものづくりやインフラといった昔ながらの産業は、従事する人の数が全体として減っているうえ、若者だともっと減っています。

長時間労働や低賃金の産業に若者が進出

 一方、長期的には、「消費者サービス」「ビジネスサービス」と「社会サービス」などでは維持または増えています。「消費者サービス」は飲食や宿泊、娯楽、生活関連サービスなどで、「ビジネスサービス」は金融や不動産、情報、学術研究など、「社会サービス」は教育や医療、福祉などです。そういった産業に若い人がどんどん進出するようになりました。

 ただし「消費者サービス」は非正規雇用が多く、長時間労働や低賃金など労働条件の厳しさから敬遠される傾向がみられ、近年は人手不足が目立ちます。また「社会サービス」には看護師や教師など国家資格を必須とする職業が多く、業界内で転職しやすいため、離職する若者は増えているかもしれません。一方で、若年人口の減少や新卒時の就職状況の好調が続いたことで、不本意な形で就職する人は減り、定着する人もおそらく増え、全体としては離職が低水準で維持されている状況ではないでしょうか。

 ――大卒後に正社員となって辞めた若者へのヒアリングやアンケートもしておられますね。

 勤続期間にかかわらず、離職した若者は労働時間が長かった傾向があります。また、同じ学歴なら女性の方が離職率は高く出ます。結婚や出産などのライフイベントだけが理由ではなく、女性はそもそも良い労働条件の企業に入りにくく、就職後のミスマッチが生じやすいためと考えられます。

 ――思う仕事につけなかったギャップも離職につながっているのでしょうか。

 大学進学率が急上昇した頃は…

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