文部科学省の中央教育審議会特別部会が、公立学校の教員には時間外勤務手当(残業代)を支給しない代わりに、一律に上乗せしている「教職調整額」の引き上げを提言する「審議まとめ」を示した。これに対し、山口県内の教育現場から、残業代を支給しない現行制度の抜本改正を求める声が上がっている。
公立学校の教員採用試験の志願者は減少傾向が続いており、特別部会は質の高い教員を確保するための方策を検討。上乗せしている教職調整額を、現在の「基本給の4%」から「10%以上」に引き上げることなどを柱とする「審議まとめ」を5月に公表した。
これに対し、こうした対策では不十分だとする声が上がっている。理由の一つに、教職が敬遠される大きな要因として長時間労働があり、調整額の引き上げではその歯止めにならないという考えがある。
「このままでは学校がもたない」。6月上旬、山口市に県内の教育関係者4人が集まって、道行く人たちに教員の労働環境改善を求めるチラシを配った。
県教職員組合の中村幸恵書記長は、「長時間労働の歯止めには残業代支給の仕組みが必要だ」と指摘する。
現行方式は、実際の残業時間に関わらず一律に調整額が上乗せさせる。このため、労働時間を減らして人件費を抑制しようという動機が管理職の側に生まれにくく、「定額働かせ放題」の制度だという批判がある。
県東部の小学校で働く男性教員も「上乗せ分を増やすのだから文句を言うなということなのか。残業代がなければ残業が無制限なことは変わらない」と憤る。
男性は特別支援学級を担当している。異なる学年の児童もいて、集中しやすいように教室をパーティションで仕切って、それぞれに違った課題を出す。一人ひとりを巡回しながら指導するが、指導中に他の児童に呼ばれ、やむなく対応を中断することもある。「とにかく人が足りない。人をもっと増やして欲しい」と訴える。
少子化による負担増も指摘する。その一つが、小規模校の教員の負担増だ。例えば、1学年が25人ずつの2学級だった学校で、子どもの数が減って1学級になるようなことが増えているという。「学級数は減るが、1学級あたりの生徒は増え、担任の負担も増える」
この教員も言うように、人手不足を指摘する声は強い。人手が足りないから長時間労働に陥り、その結果、教職が敬遠されて志願者が減る。そんな悪循環に陥っているというわけだ。
県中部の小学校で働く男性教員は「とにかく人手が足りない。休み時間に職員室に下りても誰もいない」と話す。授業時間以外も仕事に追われているからだという。様々なアンケートの依頼や学力テストの対応など授業以外の業務に負担を感じる。「教え子が教員志望で教育学部に進学したが、『先生は大変そうだから』と進路を変更してしまった。若い人が希望を持って志せる仕事であって欲しい」と願う。
県教委は近年、教員の確保に苦戦していて、昨年度は公立中学で2・3年生の1学級の生徒数の上限を従来より3人増の38人にしたほどだ。
教員を目指す人を掘り起こそうと、2023年度実施の試験で、教員免許のない人を対象にした「教職チャレンジサポート特別選考」を導入。学費の補助を受けながら教員免許を取ってもらい、免許取得後に現場に出てもらう仕組みだ。免許はあるが教職に就いていない「ペーパーティーチャー」向けのセミナーも開いた。選考試験の会場を増やしたり、一次の集団面接を廃止したりもしている。
臨時的任用や再任用にも努め、24年度は元の35人に戻した。しかし、24年度採用の教員試験の志願者倍率は2.5倍で、記録の残る1987年度以降最低だった。
中村書記長は「必要なのは勤務時間内に仕事を終えられるような環境の整備。小手先でなく抜本的な改革をしてほしい」と訴えている。(山野拓郎)