頭からつま先まで真っ黒な衣服をまとった女性と、目が合った。
イラン伝統の、チャドルと呼ばれるマントのような布で覆われていないのは、顔と手首から先だけ。かすかにほほえんでいる表情からすると、30歳前後だろうか。彼女が手にするiPhone(アイフォーン)のレンズは、私に向けられている。
通りすがりの外国人を勝手に撮影していたら、日本ならば問題になりそうなものだが、ここイランではお構いなしのようだ。前後して10人は私を撮っていった。ツーショットの記念撮影を求めてくる人もいた。
6月下旬、首都テヘランの中心部のスポーツ施設でのことだ。私は大統領選の取材のため東京から訪れていた。
そこでは保守派候補の選挙集会が開かれていた。イランの「保守派」はイスラム教に基づく価値観を重視する。テヘランの街中では、ヒジャブと呼ばれる髪の毛を隠す布を小粋に着こなす女性も多いが、この会場では頭からかぶるチャドルで頭髪や肌をきっちりと隠す女性が多かった。
チャドルやヒジャブは男性の視線から女性を守るためのものだ、と説明されることがあるが、私は異国の地で、老若男女の好奇の目にさらされていた。
「親日国」を感じない日はなかった
「オシン!」
イランでも流行した1980年代のNHKのドラマの題名をぶつけてきたのは主婦アザムさん(43)。子どもたちと一緒に私を取り囲み、家族構成やイランの印象を尋ねてきた。取材しにきたのに、いつの間にか取材される側になっていたのは、私が日本人だからのようだ。
イランは親日国と聞いていた…