人手不足を背景に若者の売り手市場が続く中、この春、「退職代行業者を使って入社後すぐ辞める若者」に焦点を当てる報道が目立った。日本は「石の上にも三年」の格言もあるように、「どんな仕事もとりあえず3年は続けるべきだ」といった考えが長く流布してきただけに、ネガティブな反応もつきまとった。
ただ、「すぐ辞める」「若者」で朝日新聞の過去記事を検索すると、2002年秋の夕刊社会面(一部地域)で建築設備会社社長が「今の若者は(中略)すぐ辞める」と嘆いていた。また国の統計を見ると、大学新卒者の就職後1~3年以内の離職率は少なくとも約30年間、さほど変化がない。
その意味では、昔からよくある若者批判の言説とも言えるが、最近は「超早期離職」という言葉も生まれるほど深刻に語られている。なぜ今年さらに注目されたのか、何が違うのか。Re:Ronの連載「『石の上にも三年』は今」は、そんな疑問から始まった。
第1回でインタビューした労働政策研究・研修機構の主任研究員、岩脇千裕さんは、若年労働者が減り「辞められて困る」という体感が強まっていること、若者がハラスメントなどへの人権意識を持つようになったことなどを挙げ、「試行錯誤のために辞める若者がある程度発生するのは、むしろ社会として健全」と語った。第4回に登場したフリーライター・作家のひらいめぐみさんの発言「極めるべきは職業ではなく自分自身」にもハッとさせられたが、20代で6回転職した経験があるからこその至言だろう。
第5回で紹介したリクルートマネジメントソリューションズの新入社員調査では、上司への期待として多かったのは「相手の意見や考え方に耳を傾けること」「一人ひとりに対して丁寧に指導すること」などで、「仕事がバリバリできること」「周囲を引っ張るリーダーシップ」「言うべきことは言い、厳しく指導すること」などを選ぶ人は少なかった。
昔ながらの熱血上司は、多様な価値観で変化に対応しようとしている今の職場と合わなくなり、若者の離職にも作用しているのではないか。そうした点も思いめぐらせながら、シリーズを読んでもらえればと思う。(藤えりか)