新潟産大付の大井勇矢斗(はやと)は夏の新潟大会が目前に迫った6月、考え事をしていた。
春に配られた「進路希望」が白紙のままだった。美容師、違う。消防士、なんか違う……。ふと、小学6年生の出来事を思い出した。
自転車で友達の家に向かっていたときのこと。交差点で出合い頭に自転車と衝突し、吹っ飛んで近くの家の自動車にぶつかった。持ち主のおじさんが詰め寄ってきた。「君のせいだ。車に傷がついたじゃないか」
警察沙汰になった。その場で30分ほど聴取を受けた。「逮捕されたらどうしよう」。いやな妄想が膨らむ中、「安心して。この傷は君のせいじゃない」。なにかの器具で現場を調べた後、若い男性のお巡りさんが教えてくれた。
そうだ、あんな大人になりたかったんだ。仕事が丁寧で、相手を安心させる優しい大人に。
警察官の仕事を調べた。交番は夜間勤務もあり、しんどそう。でも、継続力には自信がある。毎日始発で家を出て朝練し、一人だけでバットを振った日もある。先生も親も、「やってみなよ」と背中を押してくれた。
役割はブルペン捕手。投手は声をかけたら逆に緊張することがある。でも、ミットで良い音を鳴らせば必ず喜ぶし、気持ちも乗る。
夢に見た甲子園。二回からブルペンに入った。「自信持っていけよ」との思いを、パチンという音で伝えた。優しく、丁寧な仕事が自分なりにできたと思う。
あのお巡りさんに、少しは近づけたのかな。(大宮慎次朗)