埼玉県川口市と戸田市で市内の中学生が災害時に活躍できるよう教育する取り組みが動き出している。防災リーダーの育成講座を開いたり、防災士の資格取得試験の受験料を負担したり。多くの市民が日中、東京都内に通うベッドタウンならではの事情がある。
「これが簡易トイレです。みなさん、交代で実際に組み立ててみてください」。川口市立里中学校で3月7日、防災リーダーの認定講習会が開かれた。市の危機管理課の職員が、中学校に備蓄されているのと同じ簡易トイレを手に持ち、生徒たちに声をかける。
講習会に参加したのは1年生169人。生徒たちは昨秋、すでに座学の防災講習を済ませており、この日は実技だ。半日かけて、毛布を使った応急担架でけが人を運ぶ訓練をしたり、水消火器の使い方を学んだりした。
参加した佐々木玲菜さん(13)は「大人のようなことはできないと思っていたが、学習していくうちに自分たちにもできることがあるとわかった」と話した。
川口市では地区の自主防災組織のほか、中学生を対象に防災リーダーの育成にも力を入れている。同課の滝野恵大さんは「川口市は都内などへの通勤者が多く、昼間は大人が少ない。中学校が避難所になっているところが多く、運営の力になってもらいたい」と話す。
中学生の防災リーダー育成には学校の協力も大きい。同校で防災教育に力を入れてきた中屋啓子教諭は「自然災害が起きたとき、中学生でもできることは多い。在学中に学ぶ機会を設けたかった」という。
市内ではこれまで、のべ約3700人の中学生が受講し、「川口市防災リーダー」の認定証が交付されている。
隣の戸田市では中学生の防災士が誕生した。防災士試験の受験料を市が負担する「戸田市中学生防災士資格取得支援補助金制度」を2023年度から始め、この制度を利用したものだ。制度の開設は、自らも防災士の資格をもつ菅原文仁市長の発案だった。
日本防災士機構による民間資格である防災士の資格を取得するには、2日間の講義を受けた後に筆記試験を受ける必要がある。受講料は中学生の場合、3万8500円かかるが、合否にかかわらず、受験料を全額市が負担する。初めての試みだった23年度は、36人の受験申請があり、26人が合格した。
菅原市長は中学生防災士育成の狙いについて「戸田市は都内勤務者が多く、昼間の地域防災に課題がある。そこで指定避難所の学校にいる中学生に目を向けた」という。「中学生は体力もあり、知識を身につければ『助ける側』としての活躍が期待できる。最近は親子で防災士資格に挑戦する方もいる」と話している。(浅野真)