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ガザ中部デイルアルバラで2024年8月18日、イスラエルの攻撃で負傷した子どもたちを運ぶパレスチナ人男性=ロイター

‘There Is No Childhood in Gaza’

 9歳のカレド・ジョーデ君が想像を絶する喪失に見舞われたとき、パレスチナ自治区ガザ地区での戦争はまだ始まったばかりだった。母親、父親、兄、幼い妹、そして何十人もの親族が、イスラエル軍による自宅への空爆で殺害された。

 それから数カ月、カレド君は気丈にふるまおうとしていた、とおじのモハマド・ファリスさんは回想する。カレド君は、家族が殺された10月22日の空爆をともに生き延びた弟のタメル君を慰めようとした。しかし、7歳のタメル君は背骨と足を骨折する大けがを負い、いつも痛みに苦しんでいた。

 おじのファリスさんは、最近のニューヨーク・タイムズ(NYT)の電話インタビューでこう語った。「カレドは弟が泣くといつもこう言ってなだめていたんだ。『ママやパパは天国にいるんだよ。僕たちが彼らのために泣いていると知ったら、ママもパパも悲しむよ』って」

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2023年10月22日の空爆で重傷を負った弟のタメル君に寄り添うカレド・ジョーデ君。2人の両親ときょうだい2人がこの空爆で殺された=ニューヨーク・タイムズ

 夜、イスラエルによる容赦ない空爆が再開すると、カレド君は震えと叫び声で目を覚まし、時におじのもとに駆け寄って心を落ち着かせようとした。

 この幼い兄弟にとって短く恐ろしかった人生は、1月9日の空爆で終わった。親族によると、彼らが避難していた家が空爆を受け、カレド君とタメル君、いとこで2歳だったナダちゃん、さらに3人の親族が殺された。

 彼らの話は、10カ月にわたるガザでの戦争が、紛争のさなかに巻き込まれた子どもたちに、ひときわ大きな犠牲を強いてきたことを象徴している。

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ガザ中部のデイルアルバラの病院で2024年5月11日、避難民キャンプへの砲撃で負傷し、死亡した子どもの亡きがらを悼む女性=AFP時事

 10月7日のハマス主導によるイスラエルへの攻撃後、イスラエル軍はハマス壊滅を掲げて戦争を開始し、人口密度の高いガザに対して、今世紀に世界が経験したこともないような極めて激しい空爆を行った。イスラエルは、ハマスがガザの都市部の地形を利用して、住宅地の地下にトンネルを張り巡らし、民家の近くでロケット弾を発射し、市街地で人質をとることで、戦闘員や武器の備えを何重にも防護している、と非難している。

 ハマス側はこれらの非難を否定し、ハマスのメンバーはガザの住民であり、住民の中で生活していると述べている。

 国際法の専門家たちは、たとえハマスがイスラエルの言うように市民を利用していたとしても、イスラエルには市民を保護する責任があると指摘してきた。イスラエル軍は、民間人への被害を軽減するために「実行可能なあらゆる予防措置」をとっていると言う。

1万5千人の子どもが犠牲に

 ガザの子どもたちは、数え切れないほどの苦しみを味わってきた。ガザの保健当局によると、戦争で死亡した数万人のパレスチナ人のうち、推定1万5千人が18歳未満だった。国連は、少なくとも1万9千人以上の子どもたちが孤児になったと推定している。また、国連児童基金ユニセフによれば、100万人近い子どもたちが家を追われている。

 「ガザは依然として、子どもたちにとって世界で最も危険な場所だ」とユニセフのジョナサン・クリックス広報官は言う。

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ガザ南部ハンユニスで2024年8月11日、イスラエル軍による退避勧告を受けて人々が避難する中、荷物を運ぶ子ども=AFP時事

 ほとんどの子どもたちは、複数の家族が一緒に避難している過密状態の家や、夏の暑さの中でオーブンのような状態のぼろぼろのテントで暮らしており、水道も衛生設備も不足している。何千人もの人々が深刻な栄養失調に陥っており、餓死する危険にさらされている。

 国連は8月16日、多くの子どもたちが危険にさらされているとして、ポリオの発生を防ぐため、予防接種ができるようにガザでの1週間の停戦を呼びかけた。ガザ保健省は同日、ガザ地区で何年もなかったポリオの発症を確認したと発表した。

 ガザではただ生きていくだけでも困難が絶えず、子どもたちも助け合わねばならなかった。

 クリックス広報官は、数カ月前にガザを訪れた際、子どもたちが遊んだり笑ったりする姿を目にすることはほとんどなかった、と述べた。代わりに彼が目にしたのは、給水所から水を入れた容器を運んだり、食料を探そうとしたり、一家が避難する際に、わずかな荷物を運ぶのを手伝ったりと、家族を助けている姿だった。

 5歳くらいの男の子が道ばたで、水を入れた二つの燃料缶を載せた車いすを押しているのを目にしたと話した。車いすのハンドルは男の子の頭のてっぺんよりも高く、前がほとんど見えないようだった。

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ガザ北部ジャバリヤの難民キャンプで2024年8月21日、食糧配給所で鍋を持って列に並ぶ子どもたち=AFP時事

 「ガザでは誰も、子どもらしくすごすことができない」。パレスチナ人支援の主要な国連機関である国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のルイーズ・ウォーターリッジ広報官は7月、ソーシャルメディアでこう述べ、さらに加えた。「栄養失調で、疲れ切っている。がれきの中やビニールシートの下で眠っている。9カ月の間、同じ服。教育は恐怖と喪失にとって代わられた。命が、家が、そして安定が失われた」

子どもを守る、大人たちの闘い

 戦争の中でも、親たちは必死で子どもたちを守ろうとしてきた。

  • 【注目記事を翻訳】連載「NYTから読み解く世界」

幼い弟とともに空爆を生き延びたカレド君は、そのわずか2カ月半後、避難先でイスラエル軍の攻撃の犠牲になりました。何が起きたのか、親族がNYTの取材に語りました。

 迷子になったり、孤児になっ…

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