夏の稼ぎで年中食う。夢の暮らしを河内家菊水丸さん(61)はやってのける。太鼓に金を仕込んでいる? いやいや、大阪土着の河内音頭一本で、世界の海を渡ってきた。夢と金と飯。全て手に入れる「えんやこらせどっこいせ」人生とは。土台は三つのリングという。
河内家菊水丸さんの「みっつ」
①小説・映画「悪名」の舞台になった河内音頭の里②土俵際の中学時代を救ってくれた相撲③モハメド・アリと戦ったアントニオ猪木のプロレス
河内音頭取りは1、2千人いますが、音頭だけで食えるのは1、2人か。アテモンみたいなもんですわ。
なんせ季節商売でセールス期間が7、8月だけ。音頭取りの父も、運送業をやりつつ夏だけ盆踊りの櫓(やぐら)に上がってました。
《河内出身。「ワレ」の街だ》
幼い僕を阪神競馬場とか飛田新地(大阪・西成)の賭場に連れて行く父でした。そらオカン、嫌がるはずや。バーンと離婚した。
育った大阪・八尾は勝新太郎の映画「悪名」の舞台です。
手のつけられない河内男の俠客(きょうかく)の話で、原作の小説も学校で人気に。小5の読書感想文で「女郎を松島遊郭から足抜けさせた朝吉親分は偉い」と書いたら、担任は「意味知ってますか」。
作者の今東光(こんとうこう)さんも近所のお寺の住職で、外で行水してるのを見かけた。
サインもらいに行ったら「おう、坊主」。そっちこそ坊さんやのに柄悪い。ありがたい言葉は何も書かんと「極道辻説法」と一言。ほんで「散れ」と一蹴。
映画で田宮二郎が演じた「モートルの貞」には実在のモデルがいて、僕の音頭の大先輩のおやじさんでした。スタジャン羽織って何回も聞いてきはる。
「ワレ、俺と田宮二郎、どっちが男前や」
僕はそんな街で世の渡り方を勉強したんですわ。
チャンスは枠の外
《机の上の勉強は嫌い。中学に相撲部はなかったが、相撲の人脈で高校へ進んだ》
「行く高校がない」と担任に見放されてた。
ピンチはチャンス。菊水丸さんの人生はいつも土俵際の窮地から好転します。受験、仕事、がんの闘病。想定外に見舞われた時、進む? 引く? 手持ちの札でどう切り抜けるか、実体験を語ります。
受験の相談相手は大相撲の片…