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山極寿一さん

科学季評・山極寿一さん

 自民党の総裁、立憲民主党の代表を決める選挙が行われる。日本を代表する与党と野党のリーダーを決めるのだから、当然人々の関心は高まる。気候変動による自然災害が頻発し、軍事衝突によって国際的な緊張が高まり、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、あいまい性)の時代と呼ばれる現代に、どのようなリーダーがふさわしいか、じっくり考えなければならない。

 そもそもリーダーとはいったいどのような存在を指すのか。リーダーは人間だけではなく、群れをなす社会的な動物にも見られる。動物のリーダーはどのような資質によってリーダーたり得ているのか。たかが動物と見下げるなかれ。そこにリーダーの本質が隠されているかもしれない。それを私がこれまで研究してきた霊長類(サルや類人猿)の社会に探ってみようと思う。

 まず、動物のリーダーは目立つ必要がある。群れのメンバーの注意や関心を引き寄せるとともに、群れを守るため先頭に立ち外敵に立ち向かう必要があるからだ。ヘラジカは必要以上に大きな角を頭に乗せているし、霊長類でもマントヒヒのマントやゴリラの白銀色の背などが好例だ。これらは「着脱不能な飾り」としてリーダーに注意を引く効果がある。哺乳類ではオスに飾りがある例が多いが、それはメスに妊娠・出産・子育てという負担が課せられているからだ。メスは目立つオスを利用し自分と子どもの安全を図る。

 だが、メスのリーダーがいないわけではない。ゾウのようにメスを中心に群れをつくる哺乳類もいるし、チンパンジーの仲間のボノボの群れもメスが主導権を握っている。リーダーになるメスは力だけではなく、ほかのメスたちの信頼を得て、暴力的なオスを集団の力で追い払うことができる。また、オスが群れのリーダーとなる動物でも、不満がたまればメスたちが協力して役に立たないオスを追い出し、新しいリーダーを迎える例もある。リーダーたるもの、力や権威を誇示してあぐらをかいてはいられないのだ。

 よく、リーダーをボスと言うが、両者には明確な違いがあると私は思う。ボスは自分の力を誇示して競合者を屈服させるパワーポリティクスで、ニホンザルがいい例だ。メスたちは生まれ育った群れを離れないので、外からオスたちがやってきて力を競い、ボスがほかを制する。だから、優劣の違いがよくわかるように態度に表れる。しかし、メスたちがやがて交尾に応じなくなるので、ボスになっても短期間で群れを離れる。その結果、多様なオスが入れ代わり立ち代わりボスになる。

 一方、ゴリラはメスが生まれ…

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