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野崎幸助さん(右)と須藤早貴被告=ジャーナリスト吉田隆氏撮影

 《77歳資産家変死 遺体から多量覚醒剤》

 そんな見出しの記事が、朝日新聞(大阪本社版)に載ったのは、その死から1週間後の2018年5月31日だった。

 和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77)。多くの女性遍歴を思わせる自伝(16年出版)のタイトルから「紀州のドン・ファン」と呼ばれた。その後、「遺言書」をめぐる訴訟の中で、遺産は約15億円(19年時点)と明らかになる。

 死の3カ月ほど前、55歳年下の女性と結婚していた。自宅2階の寝室で倒れている野崎さんを見つけ、119番通報したのはこの女性だった。

 県警は、死因を急性覚醒剤中毒と発表した。関係先を捜索したほか、直前に死んだ野崎さんの飼い犬の死体も自宅の庭から掘り起こした。覚醒剤との接点をさがすためだが、見つからなかった。

  • 【紀州のドン・ファンとは】遺産15億円 地元への寄付と55歳年の差婚

 事件か、自殺か、それとも誤って摂取したか。捜査は難航していた。

 当時の県警幹部の一人は、覚醒剤の過剰摂取による事故死だと思っていたという。

 「若い妻がいる資産家が不自然に死んだら、妻が疑われるのは当然。なので、かえって妻ではないと思っていた」

 3年近くを経て、捜査が動く。21年4月28日、県警が殺人と覚醒剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕したのは、結婚前の姓に戻していた元妻、須藤早貴被告(28)だった。

 犯行を直接裏付ける証拠がないーー。複数の関係者が口をそろえる資産家変死事件。裁判員裁判が12日から和歌山地裁で始まります。被告側は無罪を主張する見通しです。

警察が明かさなかったこと

 田辺署で開かれた逮捕会見。刑事部長、捜査1課長、田辺署長の3人が報道陣を前に並んだ。

 「事件の発生から3年を要し…

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