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連続テレビ小説「虎に翼」。主人公の寅子(C)NHK

 日本で初めて法曹界に飛び込んだ女性をモデルにしたドラマ「虎に翼」。「はて?」という違和感に向き合い人生を切り開いていく主人公・寅子は、これまでドラマや映画で描かれてきたヒロイン像と、どう違うのか。ポピュラー文化に詳しく、『戦う姫、働く少女』『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』の著書がある河野真太郎・専修大学教授が「専門職業」「ポストフェミニズム」をキーワードに読み解く。

ヒロインが映すもの① 英文学者・河野真太郎さん

ドラマや映画、小説などの創作物に登場する女性たち。その描かれ方は時とともに移ろってきた。「ヒロイン」には何が映されているのか。変化の背景にあるものとは。インタビューシリーズで考えます。

 ――ヒロインという観点から「虎に翼」をどう見ますか。

 最近の女性主人公は、ある種の専門職業女性が多い。「虎に翼」もまさに専門職業の女性の物語で、特に法曹界に切り込み、ここまで注目されるのは日本のドラマとしては新しいのではないかと思います。

 歴史的に見ると、法廷ドラマと男性性の問題は深い関係にある。

 フェミニズムによって男性の権利や既得権が奪われるという危機感から、それを再獲得しようとする動きがあり、作品にも反映されてきた。たとえば「クレイマー・クレイマー」は、ダスティン・ホフマン演じる父親が、子育てや家事を学び成長していく感動物語のような位置づけだった。メリル・ストリープ演じる妻は、フェミニズム的な欲望を持ち、専業主婦だったが自分の人生を取り戻したいと子どもを置いて外に出ていく。そして途中で帰ってきて法廷で親権を争う。この流れが、男性をイノセントな被害者に仕立てていた。

 そのような歴史もあってか、「アイ・アム・サム」や「マリッジ・ストーリー」など海外では印象に残る女性弁護士のキャラクターが比較的目立つ。でも日本ではなぜか少ない。

 だからこそ、今回「虎に翼」でフィーチャーされたのは、すばらしいことだと思います。

 ――なぜ日本では少なかったのでしょうか。

 現実を反映しているということなのかもしれません。ただ、これからはもっと出てくるはず。それは「虎に翼」があったからだけではなく、最近活躍している法曹界の女性たちがすばらしい仕事をしているから。まだまだ男性的な文化はあると思うけど、女性差別的な社会を是正するための法廷闘争がたくさん行われていて、ポジティブな判決が出ている流れもある。そうした現実の動きが、フィクションにも新たなものをもたらすのではないかと期待しています。

 ――現実社会が作品に反映されていく、と。

 「虎に翼」はポストフェミニズムと言われる問題にも意識的だと思います。寅子は例外的に勉強ができて、試験にも受かって、裁判官にもなった。とりわけ専門職の職業的な成功こそがジェンダー平等の目標ということにされ、人権としての平等が二の次になっていくという問題です。

 ですが、資格試験に合格したときのスピーチで寅子は、道半ばで志を絶たれてしまった友人、選択肢があったことさえ知らなかったご婦人たちがいることについても言及していました。自分の特権性を意識しつつ、法律がもたらす解放があらゆる女性に向けられたものでなくてはいけないということを、高らかに宣言したんです。

 しかもその後、それを実践できているのかがコンフリクトになっていった。寅子が家庭を顧みずに働くようになって、娘との間には亀裂が入り、家族にも非難されてしまう。それに気付いてどう修復するのか、という流れも必然だったのではと思います。

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連続テレビ小説「虎に翼」。主人公の寅子(左)と娘の優未(C)NHK

 それは、専門職業的なヒーローとしての女性を描くときにはジェンダーの非対称性があり、仕事と家庭の間のバランスが避けて通れない問題になってくるから。なぜ男性の場合はあまり出てこないのかということも問わなければいけないのですが、ケア労働や家事労働を誰が受け持つのかが問題として前面に出てきて、それを解決しないと物語が説得的に終われない。

 「虎に翼」において、男女差別や家父長制が残っていることはもちろん、ポストフェミニズム的な状況に寅子が直面していることは、不思議と現代にも重なる。過去の延長線上に我々の今があるという感覚が伝わってきます。

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 ――寅子のようなヒロイン像は、これまであまりなかったのでしょうか。

 ヒロインの変遷という意味で…

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