豊かな黒髪、鋭い目つき。不老不死の趣を保つ狂言師が「60を前にやりたいな」と切り出したのには、虚を突かれた。野村萬斎が今年、秘曲「釣狐」を18年ぶりに演じる。着々と歩を進めてきた現在地はいずこ。
狂言師は還暦を過ぎると、三老曲と呼ばれる「枕物狂」「庵梅」「比丘貞」などを演じられるとされる。それまであと2年を切った。
「釣狐」を演じるのは40歳のとき以来だ。今回の取材で、繰り返し口にした言葉がある。
「『釣狐』ってどうしても体力的にも大変なので」
「体力をどういう風に作っていくか」
「体力的にきつくなる可能性がある」
かつては高い跳躍力を誇り、体脂肪率は10%を切った。アスリートのような身体能力の持ち主も、50歳を過ぎると体の変化を自覚していった。
シテは狐。人間の僧に化けて…