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関沢まゆみ・国立歴史民俗博物館教授

 住民の暮らしぶりを伝える民俗資料。その保管を担う地域の資料館や博物館の収蔵庫が満杯になっている。奈良県では知事が廃棄やデジタルアーカイブ化の方針を示した。民俗資料を後世に残していく意義とは。これからも収蔵を続けるための対策は。国立歴史民俗博物館の関沢まゆみ教授に聞いた。

比較研究の糸口、修復にも役立つけれど

 地域の民俗資料館などの施設で収蔵庫が満杯になっています。民俗資料は、地域の人たちにとってとても価値があるものなので、簡単に捨てられません。なんとか残したいという希望があり、資料館などがその受け皿になってきました。

 民俗資料には、地域の人々の生活や歴史が詰まっています。例えば、かつて結婚式は家で行われていました。来客一人ひとりにお膳を出すのですが、おわんや皿は地域で共有していました。近所の人も手伝い、料理をつくって盛りつける。そうした風習がなくなったいま、地域の歴史を伝えていくためにも大切な資料です。ほかにも、先人の知恵や技術、工夫を知ることができる資料は多くあります。できる限り残していくべきだと思っています。

 とはいえ、今後も収集を続けるには、収蔵庫のスペースを確保しなければなりません。考えられる対策はあります。一つはデジタルアーカイブ化です。資料を3Dで撮影し、寸法や、どこでどのように使われていたかといった情報も記録します。全国の資料が一覧できて、広く公開されれば、地域性や地域差などの比較研究の糸口になります。民俗資料ではありませんが、東京大学史料編纂(へんさん)所では所蔵している古文書などの資料がデジタル化されており、誰でもアクセスできるようになっています。またデジタルアーカイブ化は災害で資料が被災した際には、修復にも役立ちます。

 複数の館で連携して、農業、漁業など分野別に分担して資料を保管する方法もあります。いまは一つの博物館に様々な資料が収蔵されている状況です。少し広い地域で見れば、重複している資料もある。整理するためには専門知識が必要なので、学芸員や研究者との連携が重要になります。

 どちらの対策にも課題はあり…

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